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明石海人「白描」

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霧らひつつ入る日の涯はありわかぬ家並(やなみ)を罩(こ)めて灯りそめたり
陸橋を揺り過ぐる夜の汽車幾つ死したくもなく我の佇む
咳くは父が声なりかかるさへ限りなる夜のわが家にふかむ
駅のまへえのきの梢(うれ)にこの暁をここだく群れて鴉はさわぐ
かのあたり兄が夫婦の住居なる夜汽車の窓を過ぐる灯(ほ)あかり
検札のやがて過ぎゆく夜の汽車にあるが儘なる身を横たへぬ
ゆき交ふや夜汽車の闇にたまゆらを向ひ車室の灯(あかり)はなやぐ
花散るや双(なら)ぶ仁王の朱のさび今日の一日をくれなづみつつ
萌えいづる銀杏の大木夕づきて灯ともりたまふ鬼死母観音
置く露のつめたきばかりこの朝のつばき白花もの寂びにけり
外科室のがらす戸棚にうつりつつ昼をひそかに雲のゆきかふ
蔦わか葉陽に透く朝を窓ぎはの視力表はほのかに青む
石壁のかこむ空き地の昼の空たまたま松の花がらの降る
洗面器の昇こう水は紅あせてさかしまにうつれる三角の空
面会の兄と語らふ朝なぎを青葦むらに波のたふたふ
うすら日の坂の上にて見送れば靴の白きが遠ざかりゆく
夕あかる室の空しさ帰り去りし我兄(せ)の声は耳にのこりつつ
音たててはたはたひとつ飛びにけりあれぢののぎくおどろがなかを
ゆくりなく映画に見ればふるさとの海に十年のつろひはなし
かの浦のもくげ花咲く母が門(と)を夢ならなくに訪はむ日もがな
年祝ぎのよそほひもなく島の院に百八つの鐘ただ静かなり
追羽子の音もあらなく元日のこの静けさをひとり籠らふ
転(さへづり)おこゑはあかるき板縁に猫かのこせる昨夜の足あと
しら花のたいざん木は露ながら空のふかきに冴えあかりつつ
きりぎしの坂を越ゆれば松の秀にうねり濶き真昼あを濤
揉む瓜のにほひうすらに厨辺は秋立つ今日を片かげり来ぬ
白楊の梢にたかきうろこ雲夕あかりつつうすれゆくなり
夕凪ぐや眼下潟にしづむ日の光みだして白魚跳びしく
あかあかと海に落ちゆく日の光みじかき歌はうたひかねたり
人の世の涯とおもふ昼ふかき癩者の島にもの音絶えぬ
暮れおちて冷えさし来るひむがしの窓をまともに月さしのぼる







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