未分類 歌人と作品

柏原千恵子

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おほ空に色かよひつつ桐さけり消ぬべく咲けり消ぬべく美しも

山峡に瀧みれば瀧になりたけれなりはてぬればわれは無からむ

聲なくて見てをるわれとこゑなくてひたゆく雁と朝あけむとす

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硬貨とり落して拾はぬ拾へざる戸外にわれはわれを捨てゆく

とほざかる感じのしばしつづきつつ桐の花あるままを歩めり

内に向くものかもまして冬の夜は知らざる界の奥深きまで

冬の夜を細りほそりて卓上に鉛筆はありぬいづくより来し

見えざればまして迫りて夕ぐれの海は一枚の手紙とおぼし

在らずして在るもののごとゆふぐれのかなかなのこゑ空に華やぐ

刈田未明鴉一羽がわたりをりゆるぎなく低く遠世わたれる

この町のひとつのビルの片面が夕日浴びをりしばらくのこと

いづこにか在るゆえ映る古びたる外国の街の海岸通り

雨戸より落ちしは守宮おちたれば落ちたるものの體重の音

曇るとも晴るるともなきはるぞらに高らかに犬の声になく犬

傷口に集りをれる血球のざはめくまでに夏のゆふぐれ

夕映えにひととき早き真澄には柿の裸のこずゑの自在

おもおもと緋桃はひらく夜の底のまぶたのうらのときじくの花

「ハルシオン」しづかに溶けよ概念の青き藻屑の夜のねむりに

水のような光のような自由欲りわれらがわれにかへるゆふぐれ

とぶ鳥を視をれば不意に交じりあひわれらひとつの空のたそがれ

ひと去(い)にて忘れてゆきしハンカチはひとり不思議な在りやうをする

拾はねばいつまでもそこに菊の葉の落ちてゐて夜の疊となりぬ

圓筒の紙屑入れはいくばくの疊の距離の夕さりに立つ

さるすべり花の重みに撓みゐるこの眼前(まなさき)のぬきさしならぬ

その觸(さや)りまだてのひらにありながら水切りの石水切りて無し

戸棚よりゆふべとり出す藍の濃き皿繪の魚と深くあひあふ 

生きのこり生きのこれるは日常の底ひに冷ゆる桃をはみをり

内蔵の缺けしところをあたらしき闇とぞなして身を運ぶなり

待つなくて待たるるなきはましづかにいたくかそかに溢れていたり

鰈の身まふたつに切る一隅がありてひとりにわが住まふなり

テーブルを拭ふわが手の動きをり動けりひとつ永遠のなか

鹽少し小瓶に殘りあかねさすこの人界の朝の食卓

ひたすらにひとつ蝉なき澄み入るは死後のはろけき時のなかにや

すでに世を離れしもののごとく来て雪敷く飛騨の町に眠りぬ

われ在りてこの現世(うつしよ)の夕ぐれの水に浮く茄子しづめるトマト

もののかげ忘じをはりて初夏未明ただしろがねの水ならむとす

詩ありきそれはほとんど水の聲この惑星に興(おこ)れるものの

ともし火をかかげきぬればかかげたる歌ことごとく返し歌なる

小流れをうづめつくせる大葦にここのみの時間(とき)が動くゆるらに







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