斎藤茂吉 死にたまふ母其の4 「はるばると」~「ひとり来て」短歌集「赤光」代表作 - 短歌のこと

死にたまふ母

斎藤茂吉 死にたまふ母其の4 「はるばると」~「ひとり来て」短歌集「赤光」代表作

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斎藤茂吉「死にたまふ母」より其の4の歌と、歌の現代語訳、語の解説、鑑賞を一首ずつ記します。
このページは4ページある中の4ページ目です。歌の出典は改選版に拠ります。
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目次

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其の二
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かぎろひの春なりければ木の芽みな吹き出づる山べ行きゆくわれよ

【歌の意味と現代語訳】
かげろうの立つ春なので木の芽が皆吹き出る山を歩みゆく私なのだよ

【歌の語句】
かぎろいの・・・春につく枕詞
春なりければ・・・なり(断定の助動詞)+けり(詠嘆の助動詞)+ば(確定順接の順接助詞)

【表現技法】
意味のない枕詞に続く「春なりければ」で二句を丸々使っていて、下句に力点を置いている。
「われが」ではなく、「われ」を修飾する語句として、述部を置く構成。

【解釈と鑑賞】
其の四の序章的な意味合いの歌。母の懐であるかのようなふるさとの山に抱かれて、心を休めようとする作者を自ら述べている。

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ほのかなる通草(あけび)の花の散るやまに啼く山鳩のこゑの寂しさ

【歌の意味と現代語訳】
姿もほのかなアケビの花の散る山に鳴いている山鳩の声のこの寂しさよ

【表現技法】【解釈と鑑賞】
体言止め。場所から延べ始めて、「声」に集約させていく手法。
初版「ほのかにも通草の花の散りぬれば山鳩のこえ現なるかな」が直された。
「くろく散る通草の花のかなしさを稚(おさな)くてこそおもひそめしか」の歌があり、作者には故郷の思い出につながる植物の一つ。

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山かげに雉子が啼きたり山かげに湧きづる湯こそかなしかりけれ

【歌の意味と現代語訳】
山かげに雉が鳴いた。山かげに湧き出る湯はとりわけ悲しいものだ

【歌の語句】
湧きづる・・・湧き出る
こそ~けれ ・・・かかり結び。
下句は已然形となる決まりなのを、茂吉は已然形単体でも使ったが、 ここでは「こそ」がある。
「けれ」は「けり」の已然形。

【表現技法】
二句切れ。「山かげに」を重複させている。
しかも4句目と重複する。おそらく「ほ」の頭韻のため。以下に示す。

【解釈と鑑賞】
蔵王の高湯温泉に出かけ、そこで湯に入ったときの歌。初版の下句は「山かげの酸っぱき湯こそかなしかりけれ」。お湯は酸性泉だった。
山かげの露天風呂の風情を言ったもの。 jump

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酸(すゆ)き湯に身はかなしくも浸(ひた)りゐて空にかがやく光を見たり

【歌の意味と現代語訳】
酸っぱい露天の湯に体を包むように浸っていて空にかがやく光を見た

【歌の語句】

酸き・・・「饐(す)ゆ」からの作者の造語。酸っぱいの意味で用いた。
「天」ではなく「空」が使われている。

【表現技法】【解釈と鑑賞】

初版は「酸の湯に身はすっぽりと」
「かなしくも」は、悲しみを抱えた自分自身をいたわるかのように、お湯につかっていると、恩寵のような光が空に見えるという場面である。

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ふるさとのわぎへの里にかへり来て白ふぢの花ひでて食ひけりり

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【歌の意味と現代語訳】
ふるさとのわが家に帰ってきて、白藤の花を茹でて食べたのだなあ

【歌の語句】
わぎへ・・・我が家《「わがいえ」の音変化》自分の家。わがや。
ひでる・・・茹でる白藤の花は、若いものは食用にする。季節感のある食材。

【表現技法】【解釈と鑑賞】
「故郷でくつろいでいる作者を反映するかのように、素直に心和らぐ歌が多い一連。 jump

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山かげに消(け)のこる雪のかなしさに笹かき分けて急ぐなりけり

 

【歌の意味と現代語訳】
山陰に消え残っている雪を悲しく見ながら、山笹をかき分けて山道を急いだのだ


【歌の語句】
消のこる・・・消えるの文語形は「消(け)ゆ」

【表現技法】【鑑賞と解釈】
「悲しさに・・・かき分けて」のつながりも注意。
春になったのに小さくなって消え残っている雪を見て「悲しい」と思う、母に死なれた作者の感傷的な気持ち。jump

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笹原をただかき分けて行き行けど母を尋ねんわれならなくに

【歌の意味と現代語訳】
笹原をただかき分けて進んでいったけれども、母を訪ねる私であるはずもないのに


【表現技法】
「われならなくに」万葉集にある歌の形式と語を用いている

【鑑賞と解釈】

まるで母を探し求めるかのように、笹原をかき分けてどんどん進んでいったが、もちろん母がもう世にあるはずはない。いくら急いでも母には会えないのに。

「われならなくに」はいくらか屈折した心情を表現するときに使われる。そのようにして心の底にある悲しみを示している。jump

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火のやまの麓にいづる酸(さん)の湯に一夜(ひとよ)ひたりてかなしみにけり

【歌の意味と現代語訳】
温泉の湧く山の麓に出る硫黄泉のお湯に一晩ひたって悲しんだのだなあ

【歌の語句】
火の山・・・温泉の湧く山
酸の湯・・・酸性の酸味のある硫黄泉の湯
かなしみにけり・・・かなしむという動詞
にけりは完了の助動詞「ぬ」+詠嘆の助動詞「けり」

【表現技法】
ハ行音「ひのやま」「ふもと」「ひとよ」「ひたりて」の連続にも注意。

【解釈と鑑賞】
単なる湯ではなくて、「酸っぱい」すなわち味のある湯と体感的に表現することで、身を包む湯を強く印象付けている。
また「火の山」と続く韻で、「ははのほふりのひ」のここまでを暗に連想させるものとなっている。
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ほのかなる花の散りにし山のべを霞ながれて行きにけるかも

【歌の意味と現代語訳】
ほのかな花の散っていった山の方を霞が流れて行くのだなあ

【歌の語句】
散りにし・・・散る+完了の助動詞「ぬ」の連用形+過去の助動詞「き」の連体形
行きにけるかも・・・完了の助動詞「ぬ」の連用形+詠嘆の助動詞「けり」+詠嘆の助動詞「かも」

【表現技法】結句「行きにけるかも」で、「行く」を七音で長く述べて、霞がたなびいて流れ去る様子を表す

【鑑賞と解釈】
初版の結句は「行きにけるはも」であり、「はも」は過ぎ去ったものや遠くへだったものへの愛惜を表す助動詞だが、体言に付くのが正しいので、改選版では誤用が改められた。

なお、初版は「歌ふかなしく」の語順だった。jump

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はるけくも峽(はざま)のやまに燃ゆる火のくれなゐと我(あ)が母と悲しき

【歌の意味と現代語訳】
遠くはるかに折り重なった山の間に燃える火の赤い色と私の母とが悲しまれる

【歌の語句】
「悲しき」は 連用形止め

【表現技法】
4句に句またがり

【鑑賞と解釈】
山に焚かれる煙と火を遠く見て、母の葬儀の折のことを思い出して、悲しみがよみがえったところ。次の歌もほぼ同じ内容。jump

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山腹にとほく燃ゆる火あかあかと煙はうごくかなしかれども

【歌の意味と現代語訳】
山の中腹に遠く燃える火が赤々と煙と共に動く。悲しいけれども

【表現技法】
2句切れ

【鑑賞と解釈】
炎の動きにつれて作者の悲しみも、また呼び起こされるかのようだ。山の眺めに遠く燃える火は赤く美しい。それは同時に母を思い出させるもので悲しくはあるけれども、炎の揺らぎに目を止めずにはいられない。

この章では、其の3までは用いられなかった「かなし」や「さびし」の感情語が多用されている。

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たらの芽を摘みつつ行けり山かげの道ほそりつつ寂しく行けり

【歌の意味と現代語訳】
タラの芽を摘みながら山を登って行った。山かげの道はだんだん細く、心も寂しく進んだ。

【歌の語句】
つつは「・・・しながら」の意味

【表現技法】【鑑賞と解釈】
火葬場なら、専用の用具などがあるが、田に生えているのだろう蕗の葉を使って、骨を集める。
田んぼの真ん中で、しかも星が見え、屋根のない屋外の自然の中で亡骸を焼くということをあらためて思う。

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うらうらと天(てん)に雲雀は啼きのぼり雪斑(はだ)らなる山に雲ゐず

【歌の意味と現代語訳】
うらうらと空にヒバリが鳴いて、雪が斑になっている春の山は雲も見えずに晴れ渡っている

【歌の語句】

うらうらとは本来大気の状態の形容だが、ここではヒバリの鳴き声を修飾する。
「天」はここでは「てん」の読み仮名がある。対する「あめ」の読みは和語。空の高さとインパクトは「てん」の音の方がよく、作者は語感に優れていた。

【表現技法】
2句切れと「つつ行けり」の反復

【鑑賞と解釈】
山を行きながら、目に入った楤の木の芽を手草に折って摘みながら、山を登って行った作者だったが、道はだんだん細くなって、母を亡くした心の寂しさが増すばかりだったろう。

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寂しさに堪へて分け入る山かげに黑々(くろぐろ)と通草(あけび)の花ちりにけり

【歌の意味と現代語訳】
寂しさに耐えて、分け入って上っていく山の木の陰に、黒々とアケビの花が散っていたのだったよ

【歌の語句】
4句字余り 散りは平仮名
けりは詠嘆の助動詞

【表現技法】
「山かげを修飾する形容詞節「寂しさに堪へて分け入る」に注意。

【鑑賞と解釈】
行けども行けども母が現れてくるわけではないが、そうして寂しさをこらえながら山道を歩んでいくと、木の陰に黒いアケビの花が散っている。
寂しい心持地の作者にはそれがとりわけ黒々と見えるのだった。

■このページトップの「死にたまふ母」4

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見はるかす山腹なだり咲きてゐる辛夷(こぶし)の花はほのかなるかも

 

【歌の意味と現代語訳】
見渡す山腹の斜面に咲いている辛夷の花がほのかである

【歌の語句】
4句字余り 散りは平仮名
けりは詠嘆の助動詞

【表現技法】
見はるかすは動詞なので、語順が逆に配置されている。
「なだり」の後の助詞もない。

【鑑賞と解釈】
植物を形容する言葉が一様に「ほのか」なので、母を失った悲しみから山を彷徨している作者には何も心をひかれるものもなかったのか。
あるいは悲しみのあとでは、見るもの皆が疲れた心に淡く寄り添うものと思えたのかもしれない。

■このページトップの「死にたまふ母」4

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蔵王山(ざわうさん)に斑(はだ)ら雪かもかがやくと夕さりくれば岨(そば)ゆきにけり

【歌の意味と現代語訳】
蔵王山に斑にところどころ雪が輝くと聞いて、夕方になったので崖を登って行ったのだった

【歌の語句】
岨 そば 山の崖(がけ)が切りたってけわしいところ。絶壁。
夕さりくれば 「去る」時がたったの意味。

【表現技法】
「ゆうさりくればそばゆきにけり」の息の長い部分。

【鑑賞と解釈】
おそらく雪の蔵王の眺めを期待して山に登ったのだろうが、詠まれていないので見られなかったのだろうと推測される。

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しみじみと雨降りゐたり山のべの土赤くしてあはれなるかも

【歌の意味と現代語訳】
しみじみと雨が降っていた。山の土は赤く、その色は趣のあるものだなあ

【表現技法】
2句切れ
かも・・・詠嘆の助動詞
「あめ」「あかく」「あはれ」のア音の連続。

【鑑賞と解釈】
一連を通じて出てくるテーマカラーの「赤」がここにも見られる。
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遠天(をんてん)を流らふ雲にたまきはる命は無しと云へばかなしき

【歌の意味と現代語訳】
遠い空を流れていく雲に、命がないといえばかなしい

【歌の語句】
遠天・・・「天」(あめ)に対して、擬古的な漢語。
たまきわる・・・内、命にかかる枕詞
流らふる・・・基本形「流らふ」 「流る」に継続の助動詞「ふ」をつけた形。
引き続き流れる、絶えず流れて行くの意味。

【鑑賞と解釈】
この一連の中の秀歌。
雲は、かつて死者を焼いた煙の化したもの、魂とも信じられていた。しかし、流れる雲には実際に母の魂があるわけではないのが悲しい、という内容になる。jump

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やま峡(かひ)に日はとつぷりと暮れゆきて今は湯の香(か)の深くただよふ

 

【歌の意味と現代語訳】
山の間に日は暮れていって、今は湯の硫黄の香が深く漂う夜となった

【鑑賞と解釈】
「酸ゆき湯に身は悲しくも」の歌が初版では「酸の湯に身はすつぽりと」、「山かげに雉子が啼きたり」の下句が、「山かげの酸つぱき湯こそかなしかりけれ」だったので、「とっぷりと」の口語的な語を選んだのだろう。これは改選版でもそのままとされた。
ひなびた人懐かしいおんせんの雰囲気と、そこに悲しみのよみがえるさまが伝わる。
なお、初版の結句は「深かりしかも」。jump

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湯どころに二夜(ふたよ)ねむりて蓴菜(じゆんさい)を食へばさらさらに悲しみにけり

【歌の意味と現代語訳】
温泉の湯どころに二夜眠って蓴菜を食べれば、さらに悲しくなったのだよ

【歌の語句】
蓴菜・・・水生の植物。湖や沼に生える野草の一首。
さらさらに・・・さらにを強めた反復強調形
万葉集に「多摩川にさらす手作りさらさらに何そこの児のここだかなしき」

【表現技法】
四句に字余り
けれ・・・已然形露出

【鑑賞と解釈】
結句の已然形露出には、品田は口ごもるような印象を受けるという。それを帰京の時が迫っているためと解している。
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山ゆゑに笹竹の子を食ひにけりははそはの母よははそはの母よ

【歌の意味と現代語訳】
山深い所であるから、笹竹の若芽を食べたのだったよ。母よ、母よ。

【歌の語句】
けり・・・詠嘆の助動詞
ははそはの・・・母にかかる枕詞

【表現技法】
四五句の反復

【鑑賞と解釈】
幼い時から食べ慣れた、山の竹の子に母が思い出されて、食べながらも胸が詰まって、思わずも母に呼び掛ける。
この歌を以て「死にたまふ母」が閉じられる。

 

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