朝日歌壇より2018年4月29日分 歌の中に動物たちの春 かいつぶり 猪 鮠 亀 燕 蝶   - 短歌のこと

朝日歌壇

朝日歌壇より2018年4月29日分 歌の中に動物たちの春 かいつぶり 猪 鮠 亀 燕 蝶  

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こんにちは。まるです。
朝日新聞の朝日歌壇から好きな歌を筆写して感想を書いています。
朝日歌壇は日曜日に掲載。昨日4月29日の掲載分です。

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今週の朝日歌壇

昨日たまたま家の者がメダカを買ってきた。春は動物たちが息づく季節。紙面にも春の動物を詠んだものが多い。

高野公彦選

花筏(はないかだ)分け泳ぎゆくかいつぶり水尾(みお)はたちまち花びらに閉(と)ず

(チェコ)クロウスカー美莎子

かいつぶりは鴨に似た水鳥。昨日も似た光景がニュースで見られたが、流れの傍に桜の沢山ある場所でないと見られない。来年は自分でも立って見てみたい。

猪よ残してくれてありがとう竹の子一本抱きて帰る

(福岡県)住野澄子

桜が終わると筍の季節。ここでは「竹の子」と表記する。山の獣と恵みを分け合う人もまた同じ季節を生きている。上句は口語。「抱きて」は「いだきて」なので、文語と使い分けている。

大型ごみに出されしソファー葉桜を見つつ自己完結してやすらぐ

(京都市)森谷弘志

字余りだが「自己完結」がおもしろく、敢えてそう詠んだのだろう。葉桜との対比もおもしろい。桜では自己完結はしないものか。そう思って見ると、葉桜にはある種の落ち着きがある。

女児の名にそのひと文字を与へたき〈梨〉の花咲く真白にましろに

(さいたま市)伊達裕子

桃や桜でなく梨。梨だけが白いため、印象に残る。「与へたき」は終止形ではなく「梨」に続く連用形。

永田和宏選

水面に体(たい)を躍らせ柳鮠(やなぎばえ)ゆう空に跳ぬる春となりたり

(西条市)亀井克礼

柳鮠は10センチほどの体調の川魚だが、あるいは川魚全般を指す。俳句では春の季語。

やめてくれ桜吹雪は出来すぎさ再発告知の病院帰り

(所沢市)小坂進

深刻な場面だが、上句を口語で始める。それで軽い感じがするかといえば、一層作者の肉声となって気持ちを伝えている。口語が一様に軽いというわけではないと気が付いた。
もし、これが文語で桜吹雪だと、芝居じみるかも、と、さらっと身を交わす。それが深刻な状況を自ら救ってもいる。

妹と二人旅する信州路染めたてみたいな春の青空(富山市)松田梨子
ねえちゃんを想ってくれる人がいて今日はほのぼのレモネード日和(富山市)松田わこ

当ブログの一つ前の記事、朝日歌壇 馬場あき子x佐々木幸綱対談「歌から見えるいまの風景」でも話題に上げられた松田姉妹。小学生の頃から投稿されているらしい。常にお互いを詠んでいるところもほほえましい。「レモネード日和」も新鮮。

馬場あき子選

南から迷わず吾家に来てくれた燕(つばめ)は雨にもぴちぴち鳴けり

(竹原市)岡元稔元

「来てくれた」に作者の人柄がにじむ。そして「雨にもぴちぴち鳴けり」の擬音も新しいが、作者にとっては悪天候でも鳴く燕である。何にでもそう思えれば人生に不満などないだろう。

十余年わが庭掘りて年ごとに孵(かえ)らぬ卵産む亀二匹

(川越市)大野宥之介

どういう場所と亀なのかがよくわからないが、飼われている亀なのだろうか。ああ、また今年もあったと見守る亀と人とのひそかな関係。かえらない卵を産み続ける亀を不憫に思う思いが、10年を越えて結実し、作者の歌を生む小さな奇跡。

ものを食う児らの優しさ愛しさを見ており入学初日の朝餉(あさげ)

(伊那市)小林勝幸

先人の歌にも、子供の食の風景を詠むものは多い。悲しいものもあるが、この歌は楽しくも愛しい。感慨はむしろ「入学初日」の方にあるのだが、具体的な風景を4句の句割れ部分まで大きく取って、「愛しさ」の作者の実感の方にポイントを置く構成。

夫逝きて残せる六反遊ばせて米買ひに行く一人居のわれは

(茅ケ崎市)若林禎子

「遊ばせて」というのがよい。生地を拡げて眺めてみるが、仕立ててもそれを着る夫はもういない。下句も軽やかだが、何しろ一人分の米だ。人に仕立てる布とわがために買う米の対比もある。

佐々木幸綱選

久々に夢でなくよむストニュース仏国のことなれどあたらし

(静岡市)篠原三郎

作者が現役の頃は、ストニュースの夢を見るほどだったのかもしれない。遠い国の出来事を懐かしく見る。

親亀の甲羅に子亀乗りながら甲羅干しする花の降る午後

(京都市)後藤正樹

下句がいい。親子亀の上に桜の花が散る絵が目に浮かぶ。

今朝羽化の小ぶりのキアゲハ柚子(ゆず)にきて蜜柑にふれて春空へ去る

(松戸市)猪野富子

庭で羽化したキアゲハを見守る作者。「柚子(ゆず)にきて蜜柑にふれて」の動きがいかにも蝶らしい。

尾根道のミツバツツジの花を縫い五日市線がゆるゆるとゆく

(川崎市)しんどう藍

五日市線は東京都昭島市の拝島駅から武蔵五日市駅までを結ぶ路線だそうだ。「鉄ちゃん」が喜びそうな構図を言葉に写し取った。「花を縫い」が簡潔。「縫う」は「事物や人々の狭い間を抜けて進む」こと。「ゆるゆるとゆく」もいい。2つの動詞の主語となって、動く電車が風景の主役であることを伝える。

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