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介護の短歌 藤島秀憲『すずめ』息子が一人で父を看取るまで 

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介護を題材にした短歌で思い出すのは、藤島秀憲の歌集『すずめ』です。
当ブログにコメントをくださった方が今読んでいる歌集ということでご紹介くださったのですが、いずれもすぐれた作品で、おすすめしたい歌の数々です。

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『すずめ』第二歌集

『すずめ』は第二歌集。歌集のテーマは父の介護と死、長年住んだ家への訣別を描いたと言われます。芸術選奨新人賞および第19回寺山修司短歌賞を受賞。

母上を介護され、その後は認知症のある父上をお一人で介護。その間、お仕事はされていなかったようです。
最も多く時間を取られるのは、やはり父上の世話ではあり、便宜上「介護の短歌」としてご紹介はするものの、いわゆる介護短歌とは違い、介護を詠もうとした短歌ではありません。題材と主題とは違うということです。

タイトルの『すずめ』には、作者の孤独も感じられはすれ、その間の淡い相聞歌が救いとなっているかもしれません。

父上との生活を詠んだ短歌

父を詠んだ歌、介護から看取りまでを先に引きます。
こうして詠んでいても、父上を詠んだものが圧倒的に印象に強い。

置時計よりも静かに父がいる春のみぞれのふるゆうまぐれ
鳥籠に小鳥のいない 十二年 父の記憶を母は去りたり
花の降る町に来たれば父と吾に一年先のある心地する
新聞の兜を父は折らんとす今度五十の息子のために
一年前には折れた兜が、くしゃくしゃの朝刊に「断固反対」の拳
父の匂い、わが家の匂い、分ちがたくて蝉しぐれ聞く
ショートステイより帰り来し父その夜のおむつ替えればすみませんと言う
たばこ屋のおばさんがもう泣いている路地より父が運び出される
梅の香に百日百夜とあそびたる家をうつつを父去らんとす
明日からのデイサービスをキャンセルす父は塗り絵が大好きだった
二十八ページ目にしてその時が来たICUの扉が開く
母が逝き父が逝き二十四時間がわれに戻り来たまものとして
数々の短歌をわれに詠ましめし父よ雀よ路地よ さようなら
使用後の父のおむつの重みほど朝の市にて選る冬キャベツ

その他の歌。
いずれも家庭的な題材が多いのですが、美しい歌ばかりです。

吸い口の柚子の香っているような新月の夜をひと駅あるく
水仙の薫る小路を抜けてゆく朝の焼きたてコッペパンまで
かすみ草の種は いずこに蒔かんかなここ 百日草ここ金魚草
京都市と書いたところで山雀か声を聴きつつ左京区高野
焦げているとなりの煮物春の夜の窓と窓とが細目にひらく
一羽かと見れば二羽いる目白かな われは苦しい恋をしており
雪になる予報がはずれ雨のまま会う人はみな雨をよろこぶ
権太郎坂ののぼりの日面で赤いバイクに三度抜かれつ
ゆうがおの咲きても暮れぬ墨東に賀茂茄子田楽あつあつが来る
湯気のたつごはんがあって父がいてあなたにたまに逢えて 生きてる
枯れているだけど日にあて水をやる野ぼたんの鉢にもうしばらくは
落としたる青きりんごを追わぬまま坂ある町に暮らしはじめる

介護の大変さよりも、その後の孤独、というより、いわゆる「孤独」よりももっと深い、肉親というものがない天涯孤独も詠われます。

母を出で五十一年経つわれがひとりでひとり分を食いおり
みぞれふる菊坂われに肉親と呼べるひとりもなくみぞれふる
幸せな四人家族でありし日をかえりみさする四本の鍵

介護がいかに大変ではあっても、時に、家族のいる時間には限りがあること、そしてまた介護に伴う被介護者との関係、たとえ言葉の通わない相手であっても、人とのかかわりの豊かさのようなものをこれらの歌は如実に示しているように思えます。

ぜひ皆様にも手に取っていただきたい歌集です。

他の作品については、藤島秀憲短歌集『すずめ』からの記事に抜粋しています。







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