アララギの歌人たち 未分類

鍼の如く 長塚節の短歌の歩み

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小説「土」の作者でもある家人長塚節の作品を年代順に追います。

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■長塚節の短歌と生涯 第1回目
根岸庵 ゆく春~長塚節初期の短歌

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長塚節代表作「鍼の如く」

「鍼の如く」は節の代表作になる。大正3年。

白埴(しらはに)の瓶(かめ)こそよけれ霧ながら朝はつめたき水くにみけり
曳き入れて栗毛繋げどわかぬまで櫟林(くぬぎばやし)はいろづきにけり
無花果に干したる足袋や忘れけむと心もとなし雨あわただし
唐黍の梢にひとつづつ蜻蛉(あきつ)をとめて夕さりにけり
うなかぶし独りし来ればまなかひに我が足袋白き冬の月かも
たもとほり榛(はり)が林に見し月をそびらに負ひてかえり来われは
しめやかに雨過ぎしかば市の灯は見ながら涼し枇杷うづたかし
菜豆(いんげん)はにほひかそけく膝にして白きが落つも莢をしむけば
草臥(くたびれ)を母とかたれば肩に載る子猫もおもき春の宵かも

婚約者とのやり取り

元婚約者と手紙のやり取りがあり、花を携えての見舞いを受けた。

春雨にぬれてとどけば見すまじき手紙の糊もはげて居にけり
いささかも濁れる水をかへさせて冷たからむと手も触れて見し
朝ごとに一つ二つと減り行くになにが残らむ矢ぐるまの花
こころぐき鉄砲百合か我が語るかたへに深く耳開き居り

一首目、濡れて届いた手紙の様子。
二首目以下は、活けた花を見舞いの後も愛でる様子。「こころぐし」は悲しく切ない、の意味。

小夜ふけてあいろもわかず悶ゆれば明日は疲れてまた眠るらむ
すべもなく髪をさすればさらさらと響きて耳は冴えにけるかも
やはらかきくくりり枕の蕎麦殻も耳には軋む身じろぐたびに

「あいろ」狭くて通行の困難な道。節の余命短い病のために交際が困難になったことを指す。

相手からは必ず病気を治すようにと励ましの手紙が送られた。

ひたすらに病癒えなとおもへども悲しきときは飯(いい)減りにけり

退院して、家の蚊帳にやすんだときの様子。

たらちねの母が釣りたる青蚊帳をすがしといねつたるみたれども

「い寝る」の「い」は接頭語ではなく、「いぬ」で、ひとつの動詞。

小夜ふけてあいろもわかず悶ゆれば明日は疲れてまた眠るらむ
すべもなく髪をさすればさらさらと響きて耳は冴えにけるかも
やはらかきくくりり枕の蕎麦殻も耳には軋む身じろぐたびに

小康状態での旅行中の歌。

横しぶく雨のしげきに戸を立てて今宵は虫はきこえざるらむ
手を当てて鐘はたふとき冷たさに爪叩き聴く其のかそけきを







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