明日月曜日の新聞が休みなので、今日は一日早い朝日歌壇。
4月の2週目となると、雪の入った歌はもう見られなくなり、代わりに「春」の言葉が現れます。
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今週の朝日歌壇
4月8日日曜日の朝刊。
永田和宏選
もうこれで鳴らない電話を待たなくていい君にさよなら告げた春 大下まゆみ
鳴らない電話を待っている時の切ない気持ち。別れを告げれば、もうかかってはこない。春は秋よりも冬よりも前向きに進んでいける不思議な季節。
3句の字余りは思いを吐き出すかのように。結句は5文字の字足らずが途切れた関係をそのまま表すかのように、それぞれ不完全に終わった関係をそのまま置き換えたかのようだ。
出獄のために工場去る人が工場建屋に礼をして去る 十亀弘史
刑務所を出ていく人が、服役中に作業していた工場の最後勤務を終えて、建物に向かってお辞儀をして去ってゆく。刑務所の中にもそのような風景がある。服役囚にもそれを詠む人にも思いがある。
冷や酒を真夜の厨に立ち飲めばかちりかちりと砂吐く蜆(しじみ) 加藤宙
眠れなくなったのだろうか、真夜中に台所で酒を飲んでいると、音もない夜、家人が水に浸しておいたのだろう蜆が静かに息をしている。「かちりかちり」の擬音は、蜆が容器に当たって出す音だろうか、めずらしくておもしろい擬音だ。
馬場あき子選
生まれたる妹に母を貸すと言い兄となりし子は野へ駈けてゆく 高橋啓子
この兄となる子の表現におもわず感心してしまった。それを拾い上げて歌にしたお母さんもすごい。
キッチンに澱む闇さえ和らいで甘蔗玉葱ぐんぐん芽吹く 山木海絵子
玉葱の芽は黄緑色で真っ直ぐに伸びる。それが見えると、暗い台所の印象が違うということなのだろう。私の先生が、一度玉葱の芽を詠んだことがあるが、その場合は闇に伸びるものに恐れを感じるものだった。人によって同じ玉葱の芽であっても、まったく違ったものになると知った。
きのふまでその気配なく群れゐしに鴨は夜明けに北へ発ちたり 篠原克彦
ううむ、これも私自身が似たように詠んだことがあるのだが、群れて移動する鳥は、どうやってその時を知るのだろうか。おそらく一羽が発つと他の皆はそれに倣うのだろうが、その一羽は今日がその火だということを、どうやって知るのだろう。人ならば前夜に荷造りするものを、自らの身しか持たないものは、「その気配なく」、いつでも発つことが可能なのだ。
佐佐木幸綱選
ケンカした朝はそれぞれ犬にだけ声かけをして職場に向かう 藍原秋子
一読しておもしろいと思う歌。犬を飼っているとそうなるのだろう。そして犬を仲立ちに
仲直りするに違いない。
高野公彦選
キラキラが並び入学待つ名簿「子」の付く子ついにゼロとなる春 半場保子
このような現象が昨今起きているということよりも、歌に表すのは案外難しいところをよく伝えられていると思う。「ついに」というのは、年々「『子』が減ってきて、しまいには」という経過を表すのだが、この一語が歌に「点」ではなくて「線」の時間経過を盛り込んで、奥行きの豊かな歌になる。
膝を病む子羊は群れに遅れつつ誘導犬に見守られ行く ハルツォーク洋子
めずらしい情景。羊の群れを追う犬は、羊がどうでもそこに居るのだろうが、作者にはそう見えて、そこに心の和むものを受け取っている。作者はドイツの人。都市生活では見られない光景だ。
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