朝日歌壇

朝日歌壇から9月23日号 刑務所から3首

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こんにちは。まる @marutankaです。

朝日新聞の朝日歌壇から好きな歌を筆写して感想を書いています。
朝日歌壇は朝刊日曜日に掲載。当記事は、9月23日の掲載分です。

 

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朝日歌壇とは

朝日歌壇についての説明です。
「朝日歌壇」とは朝日新聞朝刊の短歌投稿欄です。俳句は「朝日俳壇」です。
新聞の短歌投稿欄は、どの新聞においても、誰でも自由に投稿できます。投稿方法の詳しいことは別記事
「朝日歌壇」とは何か?朝日歌壇の紹介と他の新聞の短歌投稿方法と応募の宛先住所」
をご覧ください。

<永田和宏選>

 

丁寧に朝食つくり送り出すあとはおのおの頑張りたまえ(枚方市)東大路エリカ

お母さんの作者だろうか。初句の「丁寧に」に気持ちがこもっている。通常の朝食なのだろうが、なかなか「丁寧に」は作れるときばかりではない。そこに愛情が見えてくる。結句もユーモラス。

音(おん)だけで意味を持たない言葉知るああ淀みない首相演説(神戸市)山田みち子

個人的に時事詠は好みではないが、音だけで意味を持たない言葉は短歌にもある。多くは長子を整えるために使うのだが、首相も使うとは知らなかった。なお、佐藤佐太郎はそれを「虚語」と言った。とりたてて首相の演説の中身のことではないだろう。

<馬場あき子選>

陽を知らぬ被毛はかくも柔きかと林道に死にゐる土竜(もぐら)を撫(な)づる(さいたま市)伊達裕子

土竜の通り道の土の盛り上がりはよく見るが、土竜そのものには、めったにお目にかかれない。その上、その体毛が柔らかいという観察、それを撫でた作者にも驚く。

癌(がん)知る日溺れる虫を助けやり長生きせよとひとりつぶやく(アメリカ)大竹博

私も経験があるが、重い病気になるとこういう心境になるかもしれない。自らの行為を客体化して歌に詠むことで救われることもある。

〈ボニータ〉と名付けた栗鼠(りす)を飼い慣らし膝で餌をやる獄庭(にわ)の木影に(アメリカ)郷隼人

アメリカの刑務所に服役中の作者。膝まで乗ってくるようになった栗鼠だが、時間のある囚人だからなのだろうか。共選。

気遣いへ礼を述べれば影のなき笑いを返す若き囚人(ひたちなか市)十亀弘史

こちらは国内で服役中の方。「影のなき」が刑務所ではめずらしくもさわやかに目に映るのだろう。刑務所においてもいたわり合いがあるのがいい。シャバと言えども、乾いた人間関係ばかりのこともある。

賑やかなものみな去りて短調の鳩の鳴き声わたくしの日々(徳島市)上田由美子

私は元々音楽畑なのだが、鳩の声が「短調」という思いつきは全く新鮮だ。確かに心境によっては物悲しいものだろう。

パワハラだ!セクハラ!モラハラ!スメハラと言ったところで刑務所の中(広島市)吉島覚

刑務所の中からの歌が3首続く。スメハラとは何かと家人に聞いたら、「臭い」のハラスメントであるらしい。外においては、多くは洗剤や香水の類であるようだ。

<佐佐木幸綱選>

浮きドックに午後のきらめき揺りよせていま「はまかぜ」の給油はじまる(東京都)松本知子

「はまかぜ」は東京消防庁の消防艇で、その給油作業を捉えた歌。

被災後の再建ならず閉店を告げる葉書がコトリと届く(大洲市)村上明美

福島の酪農家や農家は良く取り上げられるが、こういうお店がたくさんあるだろうことに初めて思い至る。

<高野公彦選>

雷鳴を恐れる犬に話しかけ背中摩(さす)れば安らぐ我も(島根県)非々玲子

犬や猫は案外天災に敏感だ。落ち着かせようとペットに相対していると、自分の気持ちも平らにかえっていく。人が犬を飼うのはそういう感情的共有があるからなのだろう。

永き永き未来を自ら絶つまでに命追い込む 学校とは何(観音寺市)篠原俊則

児童はいずれも年少ゆえに、失ったものの大きさを表す上句に重みがある。1字空けがあるということは、4句切れの意図があるらしい。

最近は回転ドアを見なくなり回し続けた子供もどこへ(枚方市)久保哲也

不思議な感じの歌。下句と結句がその雰囲気を表している。

天井まで風呂場の掃除してゆきぬ盆に帰省の息子と孫は(磐田市)海山綾子

私にも憶えがあるのだが、老いては文字通り手が届かないのだ。息子だけでも歌にならないわけでもないが、孫が加わってこそ良い歌になったろう。あらためて家族に感謝。

メメントモリ心にあれど時にまた忘れて今宵遠花火見る(横浜市)本多豊明

メメントモリは、ラテン語で「自分が(いつか)必ず死ぬことを忘れるな」という意味の警句。「死を記憶せよ」「死を想え」という意味。人は忘れることで生きてゆけるのだろう。今回好きな歌だ。

まとめ

興味深いことに、刑務所に服役中の方からの作品が3首見られました。歌が詠める環境と心境ということをふと思います。

隔離された環境よりは、ずっと自由なはずなのに、忙しさや雑事に取り紛れて、歌を詠むことを忘れてしまうことも多いです。

歌のためばかりでなく、日々の暮らしを豊かにするために、小さなことも大切に思う気持ちを失わずにいたいです。

 

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