朝日新聞の投稿歌より、コロナの短歌をご紹介します。
日本ばかりか、世界レベルでの危機ですが、朝日歌壇には、このコロナウイルスとその影響下の生活の情景を詠んだ短歌が早速投稿されています。
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コロナ禍を詠む短歌
日本だけでなく人類の危機ともいえる、疫病、新型コロナ、この人類の危機を短歌で分かち合おうとして、朝日歌壇の投稿にもコロナウイルスとその影響下にある生活の様子を題材にした短歌が投稿されています。
コロナの脅威にもめげず、また、生活の制限される悲しみをも、歌に詠もうとする気概が素晴らしいですね。コロナの短歌をご紹介します。
この記事は、コロナの短歌の3回目です。
これまでの記事は
コロナ禍を詠む短歌 ”心の扉を開く鍵”朝日歌壇4月5日
コロナの短歌2テレワークと「不要不急」休校の子どもたちの様子も
朝日歌壇については下の記事
朝日歌壇とは何か知りたい方へ 各新聞短歌投稿方法と宛先まとめ
4月19日の朝日歌壇より
4月19日の朝日歌壇の短歌より、コロナが題材の短歌をテーマ別にまとめてご紹介します。
マスクのある風景
「マスク」はコロナを表す重要なアイテムのひとつ、これからの短歌にも登場しそうです。
落ちてゐるマスクを拾ふ人はなく遠巻きに行く雑踏の駅
(さいたま市)齋藤紀子
足元のマスクをローアングルで拡大するようなピクチャレスクな歌。
まだこの歌の時点では、「駅の雑踏」が存在したのです。
しろたえのガーゼのマスクをベランダに大中小と並べ干す春
(奈良市)山添聖子
「しろたえの」は、布などでできたものに衣類などにかかる枕詞なのですが、令和では上の通り。
「春すぎて夏来(き)にけらし白妙(しろたへ)の 衣(ころも)ほすてふ天(あま)の香具山(かぐやま)」の本歌取りの歌です。
撮る者も撮らるる者もマスクして高輪ゲートウェイ新駅
(佐渡市)小林俊之
駅で記念のスナップを撮ろうと思う時も、普段なら写真撮影に外すかもしれないマスクが、今や当たり前。
コロナと日本列島
小さな目に見えないウイルスが、日本、そして、世界をも脅かす、その広い視点で詠まれることも。
コロナ禍の列島洗うごとく降る弥生みそかの雨の優しさ(観音寺市)篠原俊則
2句までの描写に注目。分布を表す日本の地図も多く見かけるようになりました。
全国を覆うコロナ、そして”日本全体に降る雨”という意識も、コロナ禍ではの新しく特異なものなのです。
我が世代戦禍に遭わず見(まみ)えしは平成のリーマン令和のコロナ(松戸市)長谷川隆
こちらは、コロナによって振り返る歴史。そういえば、戦争と震災を併記する歌も一時期多く見られましたね。
身近な疫病(えやみ)
現し世の疫病(えやみ)の猛威雛(ひな)たちはマスクもせずに眺めてゐたり
(大分県)松鷹久子
雛の世界には病気はないのだろうという発想が元になっている重層的でおもしろい作品。
ひな祭りのお雛様は美しく、泰然としている。「マスクもせずに」は、それが突飛には思えない今の状況の裏返しです。
スペイン風邪病みて治りし母百二歳いのちは不思議ありがたきかな
(京都市)畑中朝子
こちらは、コロナ禍から振り返って、命のありがたみをかみしめるというのです。身近な体験ならではの感慨が伝わります。
ウイルスが広がっているのではない人がウイルスを拡げている(西東京市)服部秀星
「三密」ということで、人から人への感染だということ、改めて思えば不思議なことです。
なんとなく星の数ふえて見えるなりコロナ休校つづく町の夜
(ふじみ野市)足立由子
のんびりほのぼのとする、おもしろい作品。星の数と休校には因果関係はないのだけれども、星が多くなった気がするというのですが、読む私の方も、ああそうかもしれない、となんとなく思わされます。
おそらく、町がそれだけ静かということなのかもしれませんが、理由はここに述べない方がいいですね。学生さんならのんびりしていただきたい。
コロナ以外の歌
他に、印象に残った歌をあげます。
嗚呼やめて テレビの緊急テロップに志村けんさん死亡と流る
(あきる野市)高橋美千子
ニュースではなく、突然のテロップ、誰もが驚き、その死を悼みました。
「土地売ります」「家売ります」の看板が朽ちかけているふる里対馬
(対馬市)神宮斉之
看板があちこちに出ていて、それも買い手がつかないため朽ちかけている。
作者の思い入れは「ふる里対馬」にあります。
長生きの母には重き十字架だったピエタ三度も経験し逝く
(三島市)渕野里子
ピエタとは、キリストの死の際の母を指す言葉で、正確には、死んで十字架から降ろされたキリストを抱く母マリアの彫刻や絵のことです。
マリアは一度ですが、人として最も苦しいことを繰り返し経験されたお母さん、それを支えてこられたのも、またお子さんである作者なのでしょう。
それでは、皆さんも気持ちを前向きに、日々短歌の題材を見つけるべく元気にお過ごしください。