新型コロナの短歌、短歌を詠まれる方は、どのような内容を歌にしているのでしょうか。
朝日歌壇にはコロナ禍と、その影響下の生活の情景を詠んだ短歌がたくさん投稿されています。
6月7日の朝日新聞の投稿歌より、コロナの短歌をご紹介します。
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コロナ禍を詠む短歌
日本だけでなく人類の危機をもたらす新型コロナ、この危機を短歌で分かち合おうとして、朝日歌壇の投稿にもコロナウイルスとその影響下にある生活の様子を題材にした短歌が投稿されています。
コロナの脅威にもめげず、また、生活の制限される悲しみや様々な感情を歌に詠もうとする気概が素晴らしいですね。コロナの短歌をご紹介します。
これまでの記事一覧は下から
コロナの短歌
朝日歌壇については下の記事
朝日歌壇とは何か知りたい方へ 各新聞短歌投稿方法と宛先まとめ
コロナの投稿歌 6月7日の朝日歌壇
「いってきます」いつもの通り居間を出し夫は七歩で〈職場〉に入る
(横浜市)大曽根藤子
自宅での仕事の様子。「いつもの通り」で定着した様子がうかがえます。
子どもの近くで仕事をされる方もおられる昨今、入る「職場」がある方はまだいい方のようです。共選作品。
二度とない六年生の三月も一年生の四月も奪わる
(白井市)矢車蒼子
学校が遅れただけかと思われる一方で、それぞれにとっては「二度とない」時なのです。
特に、卒業、入学に当たった方たちは気の毒なことになりましたが、まだまだこれからだと思って頑張ってほしいです。
夫婦とも家に籠れど妻だけがラインの友と繋がっている
(川崎市)小島敦
以前ならば定年後のご夫婦かと思われましたが、今は、コロナ禍の家籠り。
そんな中でも女性の人脈はすごいと思わされますね。
一輛に一人二人の電車ゆくそれでもここに日常がある
(相模原市)三木涼子
人がめっきり減ってしまった交通機関の様子を、そのままの状況で表します。
そして淡々と続く結句には、作者の強い思いが見え隠れします。
(朝霞市)青垣進
「ぶつ」は魚のお刺身のことですが、刺身というより、音にインパクトあり。家ならば、友ならばの雰囲気もそのままです
「液晶越し」というのは、「ガラス越し」からの新語で作者の造語ですが、これも素晴らしい。
そして、結句の「孟子を説けり」におかしみがあります。
仕事もオフも、今や全部液晶越し、それで足りてしまうのも、案外悪くないなと思わされる作品です。
公園に人影のなく咲きほこるロックダウンのパリのマロニエ
(フランス)佐久間尚子
上句の「咲きほこる」までは、「マロニエ」にかかるのですが、「咲きほこる」のあとの「ロックダウン」の転換があります。
「咲きほこるマロニエ」となだらかに続けず、「ロックダウン」による突然のブレイクが、コロナ禍そのものとなっています。共選作品。
コロナ以外の短歌
ここからは、題材がコロナ以外の短歌で、感銘を受けたものを紹介させていただきます。
今日も好きな短歌がたくさんです。
朝食は我が家の茱萸(ぐみ)と決め込んで猿の家族の今年も来たる
(大田市)安立聖
愉快な歌。最近は山の動物が人に近いところで暮らす例がたいへんに多いですね。
庭が食事の場となっているのです。「朝食」以下の作者の想像が面白い。
友達になる瞬間でも恋におちる一瞬でもない就活の勘
(富山市)松田梨子
対外的な活動である就活での微妙な感覚。
いわゆる「一目ぼれ」や「ふられた」に近いことも置きますが、もちろん、恋愛でも友人関係でもない、続けていると研ぎ澄まされてくる、相性や手ごたえに似た感じなのでしょう。
薬効切れ体固まるオフ状態燃料ゼロのロボットになる
(市川市)伊佐木 健
おそらくパーキンソン病などの神経系の病気の体験が、比喩によって詠まれた作品。
比喩がわかりやすく伝わります。
鳧(けり)の巣をよけてぐるつと耕して一枚の田は田植待つなり
(枚方市)秋岡実
鳧とはちどり科の鳥のこと。巣を取り払ってしまうのが普通ですが、そこを丸く残して、田植えとなる。
この後は緑の稲に囲まれて、巣が絶好の隠れ家になりそうです。
水張田(みはりだ)をキャンバスとなす櫛ケ峰十色のみどりこれぞふる里
(柳井市)山本アサヨ
ふるさとの美しさと作者の思い入れを伝える作品ですが、31文字の中にまとめられるのが素晴らしい。
たつた今ヒヨドリ水浴びしたらしい庭の水入れ波打つてをり
(柏市)玉造匡子
作者の見たのは、波打つ水のみ。そこからヒヨドリの水浴びを連想したのが上句に置かれますが、「波打っており」の結句が余韻を残します。
終わりに
今回はテレワーク関連の作品が多かったですが、内容が具体的で、私はまだ経験のないオンラインでの営みがつぶさに伝わって興味深いですね。
コロナ以外の短歌も、他にもご紹介したい歌がたくさんあります。
季節は美しい春、見つけたことを歌に詠みながら、コロナ収束まであともう少し頑張りましょう。