新型コロナの短歌、短歌を詠まれる方は、どのような内容を歌にしているのでしょうか。
朝日歌壇にはコロナ禍と、その影響下での生活の情景を詠んだ短歌がたくさん投稿されています。
6月21日の朝日新聞の投稿歌より、コロナの短歌をご紹介します。
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コロナ禍を詠む短歌
日本だけでなく人類の危機をもたらす新型コロナ、この危機を短歌で分かち合おうとして、朝日歌壇の投稿にもコロナウイルスとその影響下にある生活の様子を題材にした短歌が投稿されています。
コロナの脅威にもめげず、また、生活の制限される悲しみや様々な感情を歌に詠もうとする気概が素晴らしいですね。コロナの短歌をご紹介します。
これまでの記事一覧は下から
コロナの短歌
朝日歌壇については下の記事
朝日歌壇とは何か知りたい方へ 各新聞短歌投稿方法と宛先まとめ
コロナの投稿歌 6月21日の朝日歌壇
6月21日の朝日歌壇の、コロナ関連の題材の短歌から、好きな作品をご紹介します。
パソコンに「席にいるか」と管理され僕にはないのか移動の自由
(さいたま市)川島直
テレワークにも実はいろいろな制限があります。家に居られるからと言って、自由に行動できるかというとそうではなくて、特に会社のパソコンを持ってきて使う場合は、ネットを自由につなぐということもできないようです。
それは知っていましたが、退席に関してもチェックが入るというのは、少々つらいところですね。
テレワークできぬ職ゆえ覚悟決め地雷原行き日日義務果す
(新座市)菊地良治
テレワークができる職業はまだ恵まれている方だという方もおられます。
「覚悟決め」は切羽詰まったゆえの心境なのでしょう。
今、生きる為にお金が要るんです戦闘機なんか要らないんです
(神戸市)康哲虎
ブルーインパルスの航空ショーへの反応。直截な表現がそのまま伝わります。
関連記事:
康哲虎の短歌 第34回朝日歌壇賞
コロナニモ負ケズ岩手ハゼロ続クサウイフ処ニワタシハ住ミタイ
(三鷹市)山縣駿介
宮沢賢治の詩を元にした歌。
なんと岩手県は、コロナ感染者がゼロの唯一の件となりました。誇ってもいいことです。
就活が遠い世界のことのよう三密を避けて初夏を過ごせば
(富山市)松田梨子
三密を避けるというのは、人と会わないこと、それから、街中への外出をしないこともさすのでしょう。
そうしているうちに、就活の大変さも薄れたわけですが、いずれ再開する束の間の休息となりそうです。
たいへんですが頑張ってくださいね。
ステイホーム読む本もついになくなって寝転んでそっと開くアルバム
(富山市)松田わこ
ああ、そういう「本」もあったのか、という感じ。本棚の隅に置かれたアルバムにほっとします。
そういえば、コロナ禍でカミュの「ペスト」があたらめて売れたという話題がありました。
コロナ禍で外出もせず一人居て放哉(ほうさい)を読む〈せきをしてもひとり〉
(日進市)竹中敬一
こちらは俳句の本。尾崎放哉は自由律俳句の俳人です。吉村昭さんが伝記小説を書いたものがあります。
ゴミ袋でわれの作りし防護服看護師は着て写真送り来(く)
(東京都)仲あやの
医療物資の不足は深刻な問題となり、マスクを始め、様々なものが手作りされました。
おそらくボランティアで皆様で作られたものを贈ったものに、お返事がきたのでしょう。
看護師さんはもちろん、贈られる方にも頭が下がります。
「これいける!」おのおの口に運ぶのは分かちあえない絶品のアテ
(宮崎市)竹村茂紀
おもしろい歌。そして十分な歌です。
初句を会話の口語がそのままで印象的です。そして、オンラインの言葉は省略、それでいて状況が十分にわかりますね。
「分かちあえない」に、オンラインの埋まらない部分があり、そこに参加者としての残念な気持ちがあります。この一語です。
「絶品」は「分かちあえない」を強める言葉、最後は「アテ」の、テ行で終わる、カタカナの体言止めが聞いています。
全体的に、オンラインではあっても飲み会の、くだけたにぎやかな感じが伝わりますね。
このような内容は文字にまとめるのは難しいと思われますが、すてきな一首です。
コロナ以外の短歌
ここからは、題材がコロナ以外の短歌で、感銘を受けたものを紹介させていただきます。
今日も好きな短歌がたくさんです。
採取した菫(すみれ)の種がぱちぱちと袋の中で爆(は)ぜている夜半
(高岡市)池田典恵
夜中のかすかな音にまつわる体験を詠んだ歌。これも一つの命の鼓動に似ています。
はつ夏の空に光をひいてゆく雲雀はたてに燕はよこに
(丸亀市)金倉かおる
3句切れのまっすぐな上句に対して、下句は倒置と対句。3句切れは難しいといわれますが、直線を引くかのような、きっぱりすがすがしい雰囲気になります。
小(ち)さくとも子の嘘寂し世過ぎとは汚れゆかねば出来ぬものかと
(さいたま市)伊達裕子
子どもの嘘に面して、大人の心ば微妙に揺るぎます。
なぜそうするのか、一緒に考えてあげたいです。
四十年使いし卓上ミシン置き立ち去り難しゴミステーション
(神戸市)石川佳世子
物を捨てることに抵抗が薄れている昨今、このような歌そのものに親しみを覚えます。
あらためて、物を大切にしたい。物のためではなくて、その親しみの気持ちを芽生えさせるためにです。40年です。なんとも長い年月ではないでしょうか。
利根川と合流をするここまでが渡良瀬川の渡良瀬の水
(館林市)阿部芳夫
よくペットボトルの水に、○○の水とありますね。自分の住んでいる土地とその水に愛着があると、このような視点が生まれるのでしょう。
それにしても、「わたらせ」の音が重ねるとなんとも良い響きで、連続すると流れに通じるものがありますね。
ホームレス住み着かぬよう公園にトイレ作らぬ悲しい論理
(川崎市)小島敦
こういうことがあるのかと、初めて知りました。逆にそういう場合は、トイレが必要なわけですが、なければ住まないだろう、という帰結になる。
それを悲しいと感じる作者がいます。おそらく作らなかったとしても、ホームレスが減るわけではないでしょう。
「日常の雅(みやび)をすくい取る歌を」母の助言はハードル高過ぎ
(三原市)池田桂子
愉快な歌。歌の題材も様々で、雅を離れても人に届く歌もたくさんありそうです。
なお、この歌を選ばれたのは佐佐木幸綱選者です。
選者のコロナの短歌は、前記事をご覧ください
コロナの短歌選者の短歌とこれまでの投稿作品まとめ
終わりに
コロナも第二波が懸念されるということで、一波は過ぎ去ったということになり、生命の危機を思わせる深刻な内容の作品は少なくなったかもしれません。
ただし、流行は過ぎてもテレワークや不況の影響は残りそうで、病気そのものよりもさらに深刻な状況はこの後も続いていくと思われます。
めげないで歌を詠み続けていきましょう。それでは!
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