古今集の恋愛の和歌
ここからは 古今集に収録されている恋愛の和歌の有名なものをまとめます。
古今集の歌人として最も代表的なのは、小野小町と在原業平の恋愛の和歌です。
いとせめて恋しき時はむばたまの夜の衣をかへしてぞ着る
読み: いとせめて こいしきときは むばたまの よるのころもを かえしてぞきる
作者と出典
小野小町 古今和歌集 恋二 554
現代語訳
たいへんつらくなるまであなたが恋しいと思われる夜には、夢で逢えるように衣を裏返して着て寝ます
解説
小野小町の経歴などはよくわかっていないのですが、情感あふれる恋愛の歌が多く詠まれています。
思ひつつ寝ればや人の見えつらむ 夢と知りせば覚めざらましを
現代語での読み: おもいつつ ねればや ひとの みえつらん ゆめとしりせば さめざらましを
作者と出典
小野小町 古今集巻12・恋歌2・552
現代語訳
思いながら寝ればその人に夢で逢えるだろう 夢とわかったならば、覚めないでいてほしいものを
解説
小野小町は絶世の美女として伝わっていますが、恋愛は悲恋の歌が多いのです。
それも会うに会えない相手を夢に見るというような歌が代表的です。
うたた寝に恋しき人を見てしより夢てふものはたのみそめてき
読み:うたたねに こいしきひとを みてしより ゆめてうものは たのみそめてき
作者
小野小町 古今和歌集
現代語訳
うたた寝をして恋しい人を夢に見て以来、夢というはかないものを、私は頼みにし始めたのであった
解説
こちらも同じ夢の歌。夢にすがる哀れな女性の心情が詠まれています。
春日野の若紫のすりごろもしのぶの乱れ限り知られず
現代語での読み:かすがのの わかむらさきの すりごろも しのぶのみだれ かぎりしられず
作者と出典
在原業平(ありわらのなりひら)
※在原業平については⇒在原業平の代表作和歌5首 作風と特徴
現代語訳
春の野の紫草で染めた衣のしのぶもぢずりのではないが、あなたをしのぶばかりに心の乱れは限りもないものです
解説
こちらが恋愛遍歴が多かったと言われる在原業平の求愛の歌。
貴族の集まるところで見かけた相手に贈った歌で、染め模様のまだらのようにあなたへの思いで心が乱れていると告げる歌です。
月やあらぬ春や昔の春ならぬわが身ひとつはもとの身にして
現代語での読み:つきやあらぬ はるやむかしのはるならぬ わがみひとつは もとのみにして
作者と出典
在原業平(ありわらのなりひら)
現代語訳と意味
月は昔のままの月ではないのか。春は昔の春ではないのか。月も春も昔のままなのに、私のこの身だけが変わらない
解説
離れてしまった相手をしのぶ歌で、業平の代表作の一つです。
名にし負はばいざ言問はむ都鳥わが思ふ人はありやなしやと
読み:なにしおはば いざこととはむ みやこどり わがおもふひとは ありやなしやと
作者
在原業平(ありわらのなりひら) 古今集411 伊勢物語の9段『東下り』
現代語訳
その名にふさわしいとすれば、さあきいてみよう。都鳥よ、私の思うあの方は無事でいるのかどうか
解説
別れた相手の無事を問う悲恋の恋歌です。
さつき待つ花橘の香をかげば昔の人の袖の香ぞする
読み: さつきまつ はなたちばなの かをかげば むかしのひとの そでのかぞする
作者と出典
よみ人しらず(作者不詳)
古今和歌集 3-139 伊勢物語 60段
現代語訳と意味
夏の5月を待ってやっと咲いた花橘の香りを嗅ぐと、昔親しんだ人の袖の香りがするようで、懐かしい思いになる
解説
恋愛の懐旧の情を詠んだ歌。有名な作品で様々に本歌取りをされています。
春立てば消ゆる氷の残りなく君が心は我に解けなむ
読み:おとたてばきゆるこおりののこりなく きみがこころは われにとけなん
作者と出典
古今集 542 読み人知らず
立春になると消える氷のように、あなたの心が私に打ち解けてほしい
住の江の岸による波よるさへや夢の通ひ路人目よくらむ
読み:すみのえの きしによるなみ よるさえや ゆめのかよいじ ひとめよくらん
作者と出典
藤原敏行朝臣 (
現代語訳と意味
住の江の海岸の岸に寄る、その波ではないが、夢のなかにも、どうしてあなたは人目を避けて、寄ってきてはくれないのだろう
新古今集の恋愛の和歌
新古今集と新古今集に収録されている同時代の歌人の恋愛の和歌で有名な作者は式子内親王、和泉式部が代表的です。
黒髪の乱れも知らずうち臥せばまづかきやりし人ぞ恋しき
現代語の読み:くろかみの みだれもしらず うちふせば まずかきやりし ひとぞこいしき
作者と出典
作者:和泉式部(いずみしきぶ)
出典:後拾遺和歌集恋三 755
現代語訳:
黒髪の乱れるのもかまわずにこうして横たわっていると、この髪を手でかきあげた人が恋しく思われる
あらざらむこの世のほかの思ひ出に今ひとたびの逢ふこともがな
現代語の読み:あらざらん このよのほかの おもいでに いまひとたびの おうこともがな
作者と出典
作者:和泉式部(いずみしきぶ)
出典:百人一首56番 後拾遺和歌集
現代語訳:
もうすぐ死んでしまうこの世、あの世へ行く思い出に 今一度お会いしたいものです
玉の緒よ絶えなば絶えねながらへば忍ぶることのよわりもぞする
読み:たまのおよ たえなばたえね ながらえば しのぶることの よわりもぞする
作者と出典
式子内親王
百人一首89番 新古今和歌集
意味
わたしの命よ。絶えてしまうというなら絶えてしまっておくれ。生きつづけていたならば、恋心を秘めている力が弱って、秘めきれなくなるかもしれないので
解説
恋愛の歌ですが自発的に詠まれたものではなく、題詠であり、縁語などの技巧が駆使されています。
忘れてはうち嘆かるる夕べかな我のみ知りて過ぐる月日を
読み:わすれては うちなげかるる ゆうべかな われのみしりて すぐるつきひを
作者と出典
式子内親王 新古今集
現代語訳と意味
私のしのぶ思いをあの方には告げないで、私一人の胸にしまったまま過ぎてきたこの月日であるものを
解説
恋しい相手がいるのに、その気持ちを告げない。「過ぐる月日を」に、この思いや関係が長いことが推察されます。
時鳥そのかみやまの旅枕ほの語らひし空ぞ忘れぬ
読み:ほととぎす そのかみやまの たびまくら ほのかたらいし そらぞわすれぬ
作者と出典
式子内親王 新古今集
現代語訳と意味
その昔、賀茂斎院の神館に旅寝をしていた頃、ホトトギスがかすかに鳴き出でたあの空が忘れられません
解説
表面的には恋の歌ではないように見えますが、恋の情緒が歌全体を包んでいます。
生きてよも明日まで人もつらからじこの夕暮をとはばとへかし
読み:いきてよも あすまでひとは つらからし このゆうぐれを とわばとえかし
作者と出典
式子内親王 新古今集 1329
現代語訳と意味
あなたを思う恋の苦しさのために、よもや明日まで生きていられる身ではありますまい。今あるこの夕暮れに、訪ねる心があるなら訪ねてください。
解説
恋愛の苦しくもぎりぎりの気持ちを表す歌です。
波潟短かき蘆の節の間も逢はでこの世を過ぐしてよとや
読み:なにわがた みじかきあしの ふしのまも あわでこのよをすぐしてよとや
作者:伊勢(いせ)
出典:百人一首19番 『新古今集』恋一・1049
現代語訳:
難波潟に生えている葦の節と節との短さのように、ほんの短い間でも逢わずに、一生を過ごしてしまえと、あなたは言うのでしょうか。
以上三大歌集より、恋愛の歌の有名なものをご紹介しました。