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斎藤茂吉のサイダーの短歌 肘折温泉 泡立ちて湧きくる泉の香を好しと幾むすびしつけふの日和に

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泡立ちて湧きくる泉の香を好しと幾むすびしつけふの日和に

斎藤茂吉が肘折温泉を訪ねた際に詠んだ短歌、歌碑にも刻まれているこの歌には、”茂吉が炭酸の出る温泉でサイダーを飲んだ時の歌”というエピソードがあります。

人間茂吉の人柄をも感じさせるおもしろいエピソードと、肘折温泉滞在時に詠まれた短歌をご紹介します。

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肘折温泉と斎藤茂吉

Hijiori Onsen 01.JPGmonja.rs.z - 山形, CC 表示 3.0, リンクによる

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肘折温泉というのは、茂吉が子供のころから親しんだ、月山の麓、山形県最上郡大蔵村にある温泉郷です。

ここはおもしろいことに、炭酸泉というのが出ることで知られており、茂吉もその温泉を訪ねて2泊しています。

その旅の中で道端で湧き出ている炭酸泉を案内されて、炭酸水に砂糖を入れたものを備え付けてあったコップで2、3杯も飲み、子どものように驚き喜んだというエピソードが伝えられているのです。

その時詠んだ短歌が下のものです。

 

泡立ちて湧きくる泉の香を好(よ)しと幾むすびしつけふの日和に

読み:あわだちて わきくるいずみの かをよしと いくむすびしつ きょうのひよりに

訪れた人によると、黄金(こがね)温泉にあるカルデラ温泉館には冷たい炭酸泉も湧き、その館内には飲泉所があるそうです。

訪問客の味見のためコップが置かれていて、炭酸のシュワシュワした感じがあるのでしょう。

ただし、茂吉の詠んだように、特に匂いのようなものがあるわけではなく、茂吉はいわゆる炭酸水のシュワシュワする口当たりに大喜びしたと思われます。

炭酸水が湧いてくるさまが、「泡立ちて湧きくる」と表現されています。普通の水ではなくて、もうその時に泡が含まれるのが見て取れるということでしょう。

「好しと」は率直な表現ですが、それがとてもおいしかった、というより、とにかく珍しくてすばらしいので、なので、一杯ならぬ「幾むすび」、2度3度と飲んだという、何度も飲んだ理由がそこにあります。

※斎藤茂吉の生涯と、折々の代表作短歌は下の記事に時間順に配列しています。

「むすぶ」について

その際、お酒なら「杯を重ねる」という表現がありますが、茂吉は「むすぶ」を名詞にした「むすび」という表現をしています。

むすぶというのは、「掬う(すくう)」と同じ漢字で、「掬ぶ」(むすぶ)と書き、本来は「両手を合わせて、水をすくう」という意味で使われる言葉です。

同じ言葉を使った歌は、歌集『白桃』に、

人いとふ心となりて雪の峡流れて出づる水をむすびつ

というのがあります。

この歌は、人に会うのが嫌になったので、山の上に一人で行って、流れている川の水を手ですくって飲んだ、というような意味の歌ですが、最初の歌に関しては、実際にはコップで炭酸泉を飲んだものの、温泉である“泉”に沸いている水を、そのまま手ですくったかのようになっていますね。

なお、上の『白桃』の歌の方の「水をむすびつ」の「むすぶ」は動詞ですが、「幾むすびしつ」の用の、「幾」は名詞につく接頭語とのことなので、「むすび」は名詞。

続く「しつ」は、「する」という意味の「す」(文語の基本形「る」はつきません)」に助動詞「つ」が付いたものと思われます。

「袖ひちてむすびし水の」紀貫之

「むすぶ」は、紀貫之の下の歌にもあります。

袖ひちてむすびし水のこほれるを春立つけふの風やとくらむ

この和歌はたいへん有名であり、「むすぶ」の他にも「けふ」が重複するところを見ると、貫之の歌が茂吉の念頭にあったに違いありません。

山形を去って東京へ

「けふの日和に」の「日和」は「晴れてよい天気」という意味ですが、「けふ」といれると今日が何か特別な日であるということになりそうです。

旅先であるという以上に、歌のこの部分だけではわかりませんが、他の歌や資料から推察すると、山形での滞在を終えて、東京に帰る直前の記念旅行、知人が寄り合って送別会のようなものを催したのが、この肘折温泉への旅行で、「けふ」にはその記念的な意味合いもあるように思われます。

 

斎藤茂吉の肘折温泉の短歌

肘折温泉への滞在は2日泊まりであり、その時の短歌は下のようなものです。

最上川いまだ濁りてながれたる本合海に舟帆をあげつ

月山を源とするからす川本合海にをはりとぞなる

川のおと山にひびきて聞こえをるその川のおと吾は見おろす

ここにして大きく見ゆる月山も雪ちかからむ秋に入りたり

山岳を中腹にして平あり小さき部落そこにこもりて

肘折のいで湯浴(あ)みむと秋彼岸の狭間路(はざまじ)とほくのぼる楽しさ

のぼり来し肘折の湯はすがしけれ眼つぶりながら浴ぶるなり

峡(たに)のうへの高原にして湧きいづる湯を楽しめば何かも云はむ

朝市に山のぶだうの酸(す)ゆきを食みたりけりその眞黒きを

あかつきのいまだくらきに物負ひて山越えきたる女ら好しも

3首目の小さき部落というのが、肘折温泉郷のことです。

斎藤茂吉の歌碑と短冊

このうち、詠んだ歌のいくつかが、茂吉が肘折温泉に滞在先の松井旅館に今も展示されているそうです。

また、タイトルの歌の他、肘折のいで湯浴(あ)みむと秋彼岸の狭間路(はざまじ)とほくのぼる楽しさの2首が歌碑となっているそうですので、おいでの際は、ぜひお立ち寄りください。

肘折温泉の地図

松井旅館

肘折温泉で斎藤茂吉が滞在した松井旅館




-白き山

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