斎藤茂吉が彼岸を詠んだ短歌には、よく知られた有名なものがあります。
きょうの日めくり短歌は斎藤茂吉の春彼岸の短歌をご紹介します。
春彼岸と春分
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「彼岸(ひがん)」とは、日本の「雑節」の一つで、春彼岸は、春分(3月20日頃)の前後各3日を合わせた各7日間をいいます。
仏教では「彼岸会」の行事があり、一般には墓参りが行われます。
斎藤茂吉は、生家の隣が寺であり、窿応和尚に教育を授かったこともあって、仏教を身近に感じながら育ちました。
それ以上に、「春」とその兆しを表す言葉として、「春の彼岸」「春彼岸」という言葉を詠み込んだ歌を詠んでいます。
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春彼岸の寒き一日をとほく行く者のごとくに衢を徒歩す
作者と出典:斎藤茂吉 歌集『暁紅』
解説と鑑賞
『暁紅』にある一首。
「春彼岸」の春とはいっても、まだまだ寒いこの日。
「とほく行く者のごとくに」の修辞にポイントがあります。
実は近くにしか行かないのに、心の浮き立つ春であればこそ、どこか遠い町まで出かけていくかのように、息颯爽と街を歩く作者の心境が表れています。
春彼岸に吾はもちひをあぶりけり餅は見てゐるうちにふくるる
作者と出典:斎藤茂吉 『白き山』
解説と鑑賞
春の彼岸に餅を焼く、特に因果関係はありませんが、餅が膨らむことが、あたかも春の訪れのように思えるのです。
あるいは、「春彼岸の日に焼く餅はよく膨らむ」と言われたとしても、何となく納得してしまうような、暗におもしろいつながりを持たせた歌です。
うつつにしもののおもひを遂ぐるごと春の彼岸に降れる白雪
作者と出典:斎藤茂吉 歌集『暁紅』
解説と鑑賞
斎藤茂吉の春彼岸の歌で最も有名な歌。
背景には、熟年の恋愛とその成就があります。
「うつつにしもののおもひを遂ぐる」というのは、春に思いがけなく雪が降ったことと、作者自身の願いが叶うこととを重ねています。
ほのかな恋情の漂う、美しい歌です。
この歌の詳しい解説
うつつにしもののおもひを遂ぐるごと春の彼岸に降れる白雪 斎藤茂吉
すこやかに家をいで来て見てゐたり春の彼岸の最上川のあめ
作者と出典:斎藤茂吉『白き山』
解説と鑑賞
斎藤茂吉は、疎開後に長く肋膜炎の病気をしており、療養中も最上川の歌をたくさん詠み、病がいえるとまた最上川に出かけて行きました。
北国の長い冬もようやく春になる兆しを持つのが、春の彼岸の日。
その日に、春の明るく弱い雨が最上川に散るように降るのを眺める作者。
「春の彼岸に降れる白雪」ほどのインパクトはありませんが、「雨」には北国ならではの暖かさも感じられます。
「あめ」がひらがなであるところにも注意して味わってみてください。
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