赤光

蚊帳のなかに放ちし蛍夕さればおのれ光りて飛びそめにけり/斎藤茂吉短歌代表作『赤光』

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「蚊帳のなかに放ちし蛍夕さればおのれ光りて飛びそめにけり」斎藤茂吉「赤光」から主要な代表歌の解説と観賞です。
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蚊帳のなかに放ちし蛍夕さればおのれ光りて飛びそめにけり

(読み)かやのなかに はなちしほたる ゆうされば おのれひかりて とびそめにけり

【現代語訳】

捕えてきて蚊帳の中に放した蛍が、夕方になってひとりでに光って飛び始めたのだよ

【出典】

『赤光』 3 蛍と蜻蛉(とんぼ) 明治39年作

【歌の語句】

・放ちし……基本形は「放つ」。意味は「はなす」

・「放ちし」は 過去の助動詞 連用形  「し」の基本形は「き」

・蚊帳…蚊などの害虫から人などを守るため、部屋の中に吊り下げて使う大きな網。夏の夜は、現代のように網戸というものがなかったため蚊を避けるため、その中に入って寝た。

長塚節の短歌の用例

垂乳根の母が釣りたる青蚊帳をすがしといねつたるみたれども

意味:
母が釣ってくれた青い色の蚊帳をすがすがしいと寝た。たるんでいたけれども

・夕されば…連語 夕方になれば、夕方になって

・おのれ…自分、おのずと

・飛び初めにけり…飛ぶ+そむ(初む)の複合動詞。飛び始める

・けり…詠嘆の助動詞 《接続》活用語の連用形に付く。
〔詠嘆〕…だった。…だったのだなあ。…ことよ。

語法(1)詠嘆の「けり」それまで気付かずにいたことに初めて気付いた気持ちを表す用法。その驚きが強いとき、詠嘆の意が生ずる。断定の助動詞「なり」と重ねて、和歌に好んで用いられた。

表現技法

句切れなし

蛍の後には、主格の助動詞「は」「が」「の」に当たるものが省略されている。

 

鑑賞と解釈

解釈と鑑賞を記します。

習作期の題材「虫」

斎藤茂吉の短歌には、虫を詠んだものが多くある。この一連は「蛍と蜻蛉」の題名であり、蛍の他に、蜻蛉(とんぼ)が並べて詠われている。

また、伊藤左千夫に師事後に、新聞「日本」に課題歌に投稿をしたときの、課題も「虫」であった。

「赤光」はもっとも最初の歌が明治38年、この歌が39年になるので、斎藤茂吉のもっとも初期のもので、茂吉はこの時24歳で、歌作を始めたばかりであり、まず身近に目に入る「虫」を題材に取ったと考えられる。

孤独のモチーフとセットの「虫」

また、茂吉は山形県の農村に生まれたので、幼い頃から虫は馴染みの深いものであった。

さらに、東京では茂吉は養子の候補として、家族とは離れて暮らしていたのであり、養親はいたが、実質的な養子になれるかどうかもまだ定まらず、孤独を感じながら生活していた。

おそらく、そのような家族とも言いがたい人間関係の中で、虫は茂吉にとってもっとも身近な物であり、話し相手のいない茂吉が唯一相対できるものでもあり、時には自分自身の分身のようなものであったのだろう。

明治44年の作品には、「少年の流されびとをいたましとこころに思ふ虫しげき夜に」というのがあり、この「少年の流されびと」というのは、やはり郷里を遠く離れた自分自身のことだろうが、この「流されびと」の孤独のモチーフが、やはり「虫」とセットのイメージになっているのが見て取れる。

後年になってもこのような心境は途切れずに、昭和二十四年刊行の歌集『小園』にも「うつせみのわが息息を見むものは窗にのぼれる蟷螂ひとつ」という歌がある。

一連の他の短歌

蚕の部屋に放ちし蛍あかねさす昼なりしかば首すぢあかし

蚊帳のなかに放ちし蛍夕さればおのれ光りて飛びそめにけり

あかときの草の露玉七いろにかがやきわたり蜻蛉うまれぬ

あかときの草に生れて蜻蛉はも未だ軟らかみ飛びがてぬかも

小田のみち赤羅ひく日はのぼりつつ生れし蜻蛉もかがやきにけり

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