つゆじも 茂吉一首鑑賞

ながらふる月のひかりに照らされしわが足もとの秋ぐさのはな 斎藤茂吉『つゆじも』短歌代表作

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斎藤茂吉『つゆじも』から主要な代表作の短歌の解説と観賞です。
このページは現代語訳付きの方です。語の注解と「茂吉秀歌」から佐藤佐太郎の解釈も併記します。

他にも佐藤佐太郎の「茂吉三十鑑賞」に佐太郎の抽出した『つゆじも』の歌の詳しい解説と鑑賞がありますので、併せてご覧ください。

『つゆじも』全主要作品のテキスト筆写は斎藤茂吉「つゆじも」短歌全作品にあります。

ながらふる月のひかりに照らされしわが足もとの秋ぐさのはなのはな

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ながらふる月のひかりに照らされしわが足もとの秋ぐさのはな

歌の意味と現代語訳
流れてくる月の光に照らされた、私の足元の秋の草の花よ

出典
「つゆじも」大正10年 山水人間虫魚

歌の語句
ながらふる・・・流れ続ける。静かに降り続ける。

・用例 万葉集「うらさぶる情(こころ)さまねしひさかたの天(あめ)のしぐれの流らふ見れば」1-82 長田王(をさだのおほきみ)
意味は「さびしさが心を埋め尽くすようだ。遥か遠い天から流れる村雨を見ていると」

照らされし…過去の助動詞「き」の連用形。「花」にかかる。

表現技法
句切れなし 体言止め

鑑賞と解釈

一つ前の歌と同様、念願の海外留学が決まったところで病気が見つかり、先が見えない療養中の作品。そのためかしみじみとした味わいがある。
塚本が斎藤茂吉の歌の解説に「クローズアップの手法」といったもの。空と月の広い範囲のところから始まって、地面まで、そして、そこに建つ一人の私の足、その足の先の作者の視線の中にある、山野草の小さな花、といった順に、広い大きいところから小さいものへと狭まって、そして、ただ一点に定まる。

この歌では対象物の強調のためではなく、視線が月の光の流れる先をたどって、自然に最後のものに行きつくようになっている。また、それも「秋草の花」という、取り立てて言うべくもない、些末な小さなものである。
さらには、結句は「花」で終わっており、その花がどうだったという形容詞はない。ただ、月の光に照らされた花があるばかりである。

短歌の内容には、起承転結のはっきりとした構成のものもあるが、この歌の内容は、殊更めいたものがなく、そのような月の光の流れに同化することにある。月の光がそこにあることと、それに呼応する秋の花が月光の帰結するところである。その静かなストーリーがこの歌の内容であって、平淡に静かに味わうのが良いと思われる。

自然の中、日常の中の変わったことを見つけるのはむしろたやすい。派手なものは何もない静かで美しいものを見出し、それを掌に載せて見せてくれるような、そういう作品だと思う。

塚本邦雄の評

塚本邦雄が興味深いことを述べている。

「秋ぐさのはな」の句句は、技法的に傑出しているわけでもない。初句と第三句が共に連体形用言で、調べを不安定にしている。殊に「し」の用法は、過去より現在への堂さ残存続行として必ずしも誤りではないが、三句切的錯覚を与えつつ、実は、第四句の名詞に係るための連体形になっているあたり、かなり歯切れが悪く、落ち着かぬ要因は主としてここにある。「わが足元」と、わざわざ一人称を強調する必然性も認められない。

にも拘わらず、これらの一言言い添えたい恨みはまつわりつつも、各句が絡み合って、一首として立ち上るとき、縷縷とした言外の悲しみが、煙のように、つゆのように歌全体を包み、もはや文句のつけようがない。「茂吉秀歌」

佐藤佐太郎の評

月光に照らされた秋草の花で、現実であって現実でないような幽かな美しさを現わしている。「ながらふる」は流れるを延べた言い方だが、「ながらふる月のひかり」とつづくと、流れるような月光ということで、清明とも言うべき月光がこの単純な言い方に抱容されている。

言葉は単に音調だけでととのえるのでなく、 直観的な内容に従って言葉がこのように結晶しているのである。また「わが足もと」が確実な把握である。

「茂吉秀歌」佐藤佐太郎

一連の歌

山ふかき林のなかのしづけさに鳥に追はれて落つる蝉(せみ)あり
松かぜのおともこそすれ松かぜは遠くかすかになりにけるかも
谷ぞこはひえびえとして木下(こした)やみわが口笛(くちぶえ)のこだまするなり
あまつ日は松の木原(きはら)のひまもりてつひに寂(さび)しき蘚苔(こけ)を照(てら)せり
高はらのしづかに暮るるよひごとにともしびに来て縋(すが)る虫あり
高原(たかはら)の月のひかりは隈(くま)なくて落葉(おちば)がくれの水のおとすも
ながらふる月のひかりに照らされしわが足もとの秋ぐさのはな
わがいのちをくやしまむとは思はねど月の光は身にしみにけり

 

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