斎藤茂吉

ガレージにトラックひとつ入らむとす少しためらひて入りて行きたり 斎藤茂吉『暁紅』

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ガレージにトラックひとつ入らむとす少しためらひて入りて行きたり

斎藤茂吉『暁紅』から主要な代表作の短歌の解説と観賞です。

このページは現代語訳付きの方で、語の注解と「茂吉秀歌」から佐藤佐太郎の解釈も併記します。

斎藤茂吉がどんな歌人かは、斎藤茂吉の生涯と代表作短歌 特徴や作風「写生と実相観入」 をご覧ください。

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ガレージにトラックひとつ入らむとす少しためらひて入りて行きたり

読み:がれーじに とらっくひとつ いらんとす すこしためらい いりていきたり

歌の意味と現代語訳

ガレージに一台のトラックが入ろうとする。トラックは少しためらってから入っていった。

歌集 出典

斎藤茂吉『暁紅』 昭和10年作「夕かぎろひ」

歌の語句

歌の語句の解説です

入らむとす

・入らむとす…「入ろうとする」の文語

「入る+らむ(未来の助動詞)」

入りてゆきたり

・入りてゆきたり…「入っていった」の文語

「入る+ゆく(連用形)+たり(存続の助動詞)」

「たり」解説

「たり」の意味

《完了の助動詞「つ」の連用形に動詞「あり」の付いた「てあり」の音変化》

1 動作・作用の継続・進行を表す。…ている。…てある。

2 動作・作用が完了し、その結果が状態として存在する意を表す。…た。…ている。…てある。

3 動作・作用が完了する意を表す。…た。…てしまう。

修辞・表現技法

  • 3句切れ
  • 「入る」の反復

時間経過については、以下に

 

鑑賞と解釈

昭和10年作。歌集『暁紅』のある街頭嘱目の一首。

町の運送屋のようなところにトラックが入っていくときの情景(佐藤佐太郎)で、トラックが入るときに、慎重に少しずつ進んだ様子をとらえたもの。

地に段差のようなものがあったのか、ガレージが狭かったのだろう。両脇を見ながら車が進むことはよくあることだが、大きなトラックが、逡巡しているように見えた、その時間がかかったところを擬人化して「ためらい」といったところに、一首の眼目がある。

またそこに「少し」と入れたところにも味わいがあるだろう。「少し」」は口語的な味わいのある語でもある。

「入らむとす」と「入りて行きたり」の反復

「入らむとす」は、「入ろうとする」の意味で、これから入る、あるいは入りかけているところを指す。

「入りて行きたり」の「たり」は、完了の助動詞で、「入っていった」となる。

一首の構成と時間経過

一首には、「入ろうとする」から「入っていった」までの時間経過が盛り込まれており、「少しためらい」のトラックの様子と相関する。

「入らむ」と「入りてゆきたり」と「入る」が反復して使われているのは、一連の動きのそれぞれを二箇所の"点”でとらえたことになるだろう。

あえて違う語に置き換えなかったのは、トラックの一連の動きを緊張をそらさずに保つことができる。運転手も見る方も「入る」ことに集中することが考えられる。

なお、この一首の構成とやや似た手法は、「松風に」の歌においても使われている。

松風のおともこそすれ松かぜは遠くかすかになりにけるかも 斎藤茂吉『つゆじも』

 

斎藤茂吉自註『作家四十年』より

そのままの写生で、従来の基準から云えば最も歌らしくないものの一つであろう。けれどもこうして一首になると変な厚ぼったい味があって棄てがたいのである -『作歌四十年 自選自解 斎藤茂吉』

佐藤佐太郎の解説

街の運送屋のようなところのガレージにトラックが入って行くところで、せまいところへ入るのだからトラックは一息に進行するのではなく、ハンドルを操作しながら逡巡するように入る。感情のない機械であるトラックの動きの中に、たとえば人間の恥じらいのようなものを認めたのである。

山川草木鳥獣以外の近代的無生物を対象に感情を移入したのが特殊でもあり新しくもある。「少しためらひ」が見たところであり、対象にふさわしく「少し」と記述的にいったのも巧みである。それにしても、いかにも戦前の個人経営の運送屋らしい小規模なガレージであることが感じられる。

「茂吉秀歌」佐藤佐太郎

塚本邦雄の評

不躾に、ぐいぐいと突進するように車庫に入って、あたりが焦臭い空気に満ちる。そのような様子こそ、いかにもトラック的である。それゆえに「少しためらひ」は、操縦上の必然に近いにもかかわらず、似合わぬ逡巡と映って、諧謔を生む。

何となくほほえましく、しかも、後味は乾ききっていて、抒情のかけらもない。瑣末趣味と紙一重の差で、おのづから別の世界に、鈍い存在感を誇っている。「茂吉秀歌」塚本邦雄著より

「暁紅」の一連の歌

ガレージに入りて行きたるトラックは底ごもりせる音をたてたり

軍隊の通り過ぎたるうしろより心しみじみと見てゐる吾は

ほそき月おちて行きたる二月(きさらぎ)の虚しき空をわれはあふぎぬ

「陣没したる大学生等の書簡」が落命の順に配列させられけり


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