街かげの原にこほれる夜の雪ふみゆく我の咳ひびきけり
斎藤茂吉『あらたま』から主要な代表作の短歌の解説と観賞です。
このページは現代語訳付きの方で、語の注解と「茂吉秀歌」から佐藤佐太郎の解釈も併記します。
他にも佐藤佐太郎の「茂吉三十鑑賞」に佐太郎の抽出した『あらたま』の歌の詳しい解説と鑑賞がありますので、併せてご覧ください。
『あらたま』全作品の筆写は斎藤茂吉『あらたま』短歌全作品にあります。
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街かげの原にこほれる夜の雪ふみゆく我の咳ひびきけり
歌の意味と現代語訳
街の暗がりの原に凍っている夜の雪を踏みながら行く私の咳が響くのだなあ
出典
『あらたま』大正5年 1 夜の雪
歌の語句
街かげ・・・「町」は町名を表す時、それ以外は「街」が使われた。
原・・・ 自宅近くの空き地のようなところ。
ふみゆく・・・踏み+行くの複合動詞 踏んでいく
けり・・・詠嘆の助動詞
表現技法
句切れなし 「夜の雪」のあとは「を」の助詞が省略されている
鑑賞と解釈
最初にまだ誰も踏んでいないだろう「凍っている雪」を置いて、遅れて「我」とその動き、そして「咳」をもって、原の空間の無人の喚起と静けさを大仰でなく淡々と表している。
「祖母」一連の跡からは、平坦な日常的な歌が続く。塚本邦雄は退屈をさかんに述べながらも「端正で引き締まった調べ、ふと襟を正したくなるくらいの真摯な凝視と作詩法(プロソディ)は文句のつけようもない」と言っている。
淡い歌ではあっても、依然として作者には孤独が胸を占めていたのだろう。
退屈なほどの日常的な歌が詠まれるときというのは、逆に生活も心境も安定していたには違いない。
「作歌四十年」より斎藤茂吉の解説
寒い時分に東京で作ったものである。「我の咳ひびきけり」に重点があり「けり」と曲がないように止めたのであった。(斎藤茂吉著『作歌四十年』より)
佐藤佐太郎の評
一連の歌
1 夜の雪
街かげの原にこほれる夜の雪ふみゆく我の咳ひびきけり
夜ふけてこの原とほること多しこよひは雪もこほりけるかも
原のうへに降りて冴へたる雪を吹く夜かぜの寒さ居るものもなし
さ夜なかと夜はふけにけり冴えこほる雪吹く風の音の寂しさ
こほりたる泥のうへ行くわがあゆみ風のなごりの身にしひびけり
夜の最中すでにすぎたりけたたまし軍鶏の濁ごゑをひとり聞き居り
さむざむと寝むとおもへど一しきり夜のくだかけの長啼くを聴く
夜ふかし寝つかれなくに来しかたのかなしき心よみがへり来も