新しき年のはじめにおもふことひとつ心につとめて行かな
斎藤茂吉の年の初めに詠まれる短歌で、よく引用される代表作品の一つです。
スポンサーリンク
新しき年のはじめにおもふことひとつ心につとめて行かな
現代語での読み:
あらたしき としのはじめに おもうこと ひとつこころに つとめてゆかな
作者と出典
斎藤茂吉 さいとうもきち 歌集『暁紅』
歌の意味
新しき年のはじめに心に思うこの一つのことを、ずっと思い続けて一年を過ごそう
語句と文法
・新しき…古語では読みは「あらたしき」
・おもふ…新仮名遣いと漢字では「思う」。歌ではあえてひらがな表記を用いている。
・つとむ…漢字は「勤める」「務める」「努める」がある。「努力する。励む」の意味
・行かな…「な」は 意志や願望を表す終助詞 …たい。…よう。
句切れ
3句切れ
解説
歌集『暁紅』、昭和10年の年頭の作。
わかりやすい内容なので、スピーチなどでもよく引用される短歌となっている。
歌集での順番
新春詠は、それより先に「おほ君は神にしいませひさかたの天の御中も統(す)べたまひたる」に始まる一連がある。
その後に、「岡の冬草」「春光」「餅」と年頭の歌が続き、そのあとの「みちのく山」の一連は、故郷の「みちのく」と身辺を詠った生活詠で、「みちのく」冒頭がこの歌となる。
時局の変化が主題となっているものが、作者の年頭の感に先んじて置かれ、時局の大事が優先で、個や身辺の些事は次第に、二の次になることも見て取れる。
一首の意味は、そのままでわかりやすく、正月の年頭の感、その思いをもっていこうという、意志を記したもの。
「ひとつ」の内容は特に明らかではないが、一連のタイトルは「みちのく」であって、続く歌は 「みちのくのはらからおもひ雪ふぶくみちのく山を忘れておもへや」と、故郷の厳しい寒さの中にある兄弟に思いを馳せる内容となっている。
一連の歌
新しき年のはじめにおもふことひとつ心につとめて行かな
みちのくのはらからおもひ雪ふぶくみちのく山を忘れておもへや
たかだかと物を積みたるトラツクのとほりて過ぐるあとを見てゐる
やはらかく朝日のさせる外苑の道をし行けば街の遠ひびき
うまいより醒めて話をしはじめたるわが子等見つつ心ゆらぐも
たかだかと物を積みたるトラツクのとほりて過ぐるあとを見てゐる
一連の歌を見ると、心に浮かんだことや、身辺で目にしたことで、一首のひらがなの多い表記にも、強い決意というよりも、作者の素朴な願いが伺える。う。