やま峡に日はとつぷりと暮れゆきて今は湯の香の深くただよふ
斎藤茂吉の歌集『赤光』「死にたまふ母」其の4の短歌に現代語訳付き解説と観賞を記します。
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やま峡に日はとつぷりと暮れゆきて今は湯の香の深くただよふの解説
現代語での読み:やまかいに ひはとっぷりと くれゆきて いまはゆのかの ふかくただよう
作者と出典
斎藤茂吉『赤光』「死にたまふ母」 其の4 18首目の歌
現代語訳
山あいにおいて日が暮れて暗くなり、温泉の香りがひときわ深く感じられた
歌の語句
- やまかひ・・・山と山との間の低くなった所。谷間。やまあい
- とつぷりと・・・日がすっかり暮れるさまに用いる副詞
句切れと表現技法
- 句切れなし
- 擬態語の使用
解釈と鑑賞
歌集『赤光』「死にたまふ母」の其4の18首目の歌。
母の葬りののちに温泉に泊まった2日間に詠まれた歌とされる。
短歌の特徴
この歌では擬態語「とつぷりと」の部分が、音の上で耳につく部分となっている。
塚本邦雄は「通俗慣用的」と評した。
歌の意味
歌の意味は夜暗くなると温泉の香りが深くなるというもの。
正確には視覚が減じた分、嗅覚が鋭くなるという現象への気づきで、感覚的なところを捉えている。
初版の短歌との比較
この歌は初版においては
やま峡に日はとつぷりと暮れたれば今は湯の香の深かりしかも
となっている。
比較のため並置すると
初版:やま峡に日はとつぷりと暮れたれば今は湯の香の深かりしかも
改選版:やま峡に日はとつぷりと暮れゆきて今は湯の香の深くただよふ
条件法の「たれば」は複合動詞の「ゆきて」と変えられた他、「深かりしかも」の詠嘆が「ただよふ」のそのままの描写となった。
上山温泉の場所
一連の歌
蔵王山(ざわうさん)に斑(はだ)ら雪かもかがやくと夕さりくれば岨(そば)ゆきにけり
遠天(をんてん)を流らふ雲にたまきはる命は無しと云へばかなしき
やま峽(かひ)に日はとつぷりと暮れゆきて今は湯の香(か)の深くただよふ
湯どころに二夜(ふたよ)ねむりて蓴菜(じゆんさい)を食へばさらさらに悲しみにけり