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「かうかうと」「しんしんと」の意味 斎藤茂吉の短歌の畳語

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「かうかうと」「しんしんと」など、斎藤茂吉の短歌には、音を二つ重ねた形の畳語といわれる言葉が多く見られます。

斎藤茂吉の短歌の畳語とその意味、読み方をまとめます。

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「かうかうと」「しんしんと」は畳語

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「かうかうと」「しんしんと」のように、同じ音を重ねた言葉が、斎藤茂吉の短歌には多く見られます。

これらの言葉は「畳語」(じょうご)と呼ばれるものになります。

畳語とは 解説

以下に畳語の定義をあげます。

畳語とは、同一の形態素を重ねて用いた形式の複合語。「さらさら」のように全体がそうであるものと、「軽軽(かるがる)しい」のように一部が重ねられているもの(重綴(じゅうてつ))とがある。

畳語の分類

畳語の分類と、その例は下のように分けられます。

(1)複数 人人、木木、山山
(2)反復 重ね重ね、次次、飛び飛び
(3)強調 まるまる、津津浦浦、見る見る
(4)不定 だれだれ、何何
(5)擬音・擬態語 きらきら、しずしず、ごろごろ、やれやれ

このうち、斎藤茂吉が使う畳語は、(5)番目の物が多いです。

「しんしんと」斎藤茂吉の畳語1

このうち、斎藤茂吉の畳語でもっとも頻繁に使用され、広く知られた特徴的なものは「しんしんと」です。

斎藤茂吉の代表作「死にたまふ母」にもこの「しんしんと」を含む歌があるので、斎藤茂吉に特有の言葉として記憶されている方も多いでしょう。

「しんしんと」が含まれる短歌

「しんしんと」が含まれる短歌の一部は次の通りです。

死に近き母に添寝のしんしんと遠田のかはづ天に聞ゆる

ひた走るわが道暗ししんしんと怺へかねたるわが道くらし
―「赤光」より

しんしんと雪降る中にたたずめる馬の眼はまたたきにけり

―「あらたま」より

 

 

「しんしん」の意味

この「しんしんと」の意味は、はっきりと言い得るものではなく、様々な解釈があります。

漢字をあてるとしたら数種類、「深々と」「森森と」「津々と」などがあります。

元々の「しんしんと」の定義は、「奥深く静寂なさま。ひっそりと静まりかえっているさま」ですが、「死に近き」の歌では、「しんしんと」については、斎藤茂吉自身が下のように解説しています。

「『しんしん』は、上句にも下句にも関連しているが、作者(茂吉本人)は添い寝の方に余計に関連せしめたかったように思う」―『作歌四十年』

つまり、作者の言うのは、添い寝に「しんしんと」がかかるということになります。

斎藤茂吉の短歌の研究書を出している品田悦一氏によると

臨終の迫った母に添い寝する心境と蛙の大合唱とが、さながらこの一句に溶かしこまれているように感じられる

ということで、決して単一の意味ではありません。

※「しんしんと」の他の歌人の解釈について詳しくは、以下の記事に

この「しんしんと」は、当時、他の歌人が斎藤茂吉の用法を真似て使ったため、一時大流行したことが伝わっています。

 

「かうかうと」斎藤茂吉の畳語2

「かうかうと」の表記は、旧仮名遣いにおける表記で、新仮名づかいだと「こうこうと」です。

言葉にして読むときも、「かうかう-kaukau」ではなく、「koukouto-こうこうと」と詠みます。

「かうかうと」を使った短歌

「かうかうと」が含まれる短歌の一部は次の通りです。

かうかうと西吹きあげて海雀あなたふと空に澄みゐて飛ばず

かがやけるひとすぢの道遥けくてかうかうと風は吹きゆきにけり

「かうかうと」の意味

「かうかう=こうこう」は、「ごうごう」とも同じ言葉で、「ごうごう」の意味は

「地鳴り、潮騒などのように、底ふかくとどろきわたる音、また、はげしい風や電車の音などのように、騒がしくうなるようにひびく音を表わす語。」

というものです。

佐藤佐太郎は、最初の歌の「かうかうと」について以下のように述べています。

「かうかうと」は「しんしんと」などと同じく、この作者が「発見」して頻用した副詞だが、ここでは最も適切にもちいられている。

 

「あかあかと」斎藤茂吉の畳語3

斎藤茂吉の畳語で、もう一つ多く見られるものが「あかあかと」です。

「あかあかと」の用いられた歌

星のゐる夜ぞらのもとに赤々とははそはの母は燃ゆきにけり「赤光」

あかあかと一本の道とほりたりたまきはる我が命なりけり「あらたま」

「あかあかと」の2つの意味

「あかあかと」は漢字は「赤赤と」。

意味は、「非常に赤いさま。真っ赤なさま」となります。

もう一つ、形容詞「あかし」には、「明るい」の意味があるので、「あかあか」がどちらの意味になるのかは、注意する必要があります。

上の、「あかあかと一本の道とほりたりたまきはる我が命なりけり」の「あかあかと」について、塚本邦雄は

むしろ「明明と」と表記する方がふさわしい

として、「明るい」の意味の方に解釈をしています。

 

「かんかんと」斎藤茂吉の畳語4

「かんかんと」は斎藤茂吉の畳語の特徴的なものの一つで、下の歌に含まれています。

「かんかんと」の含まれる歌

かんかんと橡の太樹の立てらくを背向(そがひ)にしつつわれぞ歩める
―「あらたま」より

 

「かんかんと」の意味

「かんかんと」は「① 日の光が強く照りつけたり、炭火が勢いよくおこったりするさま。② はげしく怒るさま。③ 鐘をたたく音」などが通常の意味ですが、「いづれもこの歌の趣から逸れる」(塚本邦雄)と言われる通り、従来の意味を当てはめることができません。

作者自身の解説によると「男性的に亭々と空に聳えておる橡の大樹」と述べていますので、「亭々と」の意味「高くそびえたつさま」に、茂吉の感覚で、カ行の弾む音を加え、音韻の面から効果を計ったのが、「かんかんと」であると思われます。

斎藤茂吉の他の畳語を含む短歌

他にも、畳語を含む歌をあげておきます。

ほのぼのと諸国修行に行くこころ遠松かぜも聞くべかりけり

ゆらゆらと朝日子あかくひむがしの海に生まれてゐたりけるかも

以上、斎藤茂吉の畳語について、よく使われている浄弘を含む短歌と、その意味、読み方をまとめました。




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