わが眠る家の近くの杉森にふくろふ啼けり春たつらむか
斎藤茂吉『白き山』から、主要な代表作の解説と鑑賞、きょうは立春に関連する短歌をご紹介します。
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わが眠る家の近くの杉森にふくろふ啼けり春たつらむか
読み:わがねむる いえのちかくの すぎもりに ふくろふなけり はるたつらんか
歌の意味
私が眠るこの家の近くに杉の林に、梟が鳴き始めた。春が来たのだろうか
作者と出典
斎藤茂吉『白き山』「ふくろふ」より
句切れと表現技法
- 句切れ
鑑賞と解釈
昭和21年疎開中に詠まれた歌、「ふくろふ」の中の一首。
戦後一人で帰省し、滞在した故郷だが、実家ではなく知人の家に疎開を余儀なくされた。
当初滞在したのは、妹の家であるが、故郷とはいえ、なじみの家であったわけではない。
「わが眠る家の近くの」は、滞在した家の付近ということで、そこに梟の声がするということで親しみを覚えたのであろう。
小動物を詠んだ歌は作者に多いものだが、家族を離れて一人だけの疎開であり、伝わる声に、梟の存在を感じるということに、作者の孤独も大きく反映している。
その中でも、かすかな春の気配を喜ぶ様子に、涙ぐましい作者の日々の生活の心情がうかがえる。
一連の歌
わが眠る 家の近くの 杉森に ふくろふ啼けり 春たつらむか
純白なる 蔵王の山を おもひいで 蔵王の見えぬ ここに起臥す
最上川 みず寒けれや 岸べなる 浅淀にして 鮠の子も見ず
朝な朝な 惰性的に見る 新聞の 記事にをののく 日に一たびは
ここにして 蔵王の山は 見えねども 鳥海の山 眞白くもあるか
--『白き山』