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雪ぐもりひくく暗きにひんがしの空ぞはつかに澄みとほりたる/ともしび斎藤茂吉

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雪ぐもりひくく暗きにひんがしの空ぞはつかに澄みとほりたる

斎藤茂吉『ともしび』から主要な代表作の短歌の解説と観賞です。
このページは現代語訳付きの方です。語の注解と「茂吉秀歌」から佐藤佐太郎の解釈も併記します。

他にも佐藤佐太郎の「茂吉三十鑑賞」に佐太郎の抽出した『ともしび』の歌の詳しい解説と鑑賞がありますので、併せてご覧ください。

斎藤茂吉がどんな歌人かは、斎藤茂吉の作品と生涯 特徴や作風「写生と実相観入」 をご覧ください。

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雪ぐもりひくく暗きにひむがしの空ぞはつかに澄みとほりたる

読み:ゆきぐもり ひくくくらきに ひんがしの そらぞはつかに すみとおりたる

歌の意味と現代語訳

雪が降りそうな空の向こう、東の空はかすかに澄みとおっている

歌集 出典

「ともしび」の中の 「ゆふべ」 大正15年

歌の語句

・雪ぐもり・・・雪もようの曇り空

・ひむがし・・・「ひがし」。短歌では「ん」を加えてて4音にして、「ひんがしの」として短歌の5音部分に用いる。他に南を「みんなみ」と読むのがある。

・ぞ・・・強意の助詞

・はつかに・・・「かすかに」の意味の副詞

・澄みとほりたる・・・「澄む+とおる+助動詞たり」
「たり」は存続の助動詞。「している」の意味。

・「とおりたる」は連用形で、結句に来るものを「連用止め」という

表現技法

・「雪ぐもり」「暗きに」の「き」の連続、「ひんがし」「はつかに」のハ行音など、調子が整えられているところに注意。

・「澄みとほりたる」は「たり」の終止形ではなく連用止めの余韻も味わえる

 

鑑賞と解釈

大正15年作「ゆふべ」の中の連作四首の中の最初の一首。

作者茂吉は、この歌を最初の一連5首を『作歌四十年』で述べる時、「やはり艱難生活のつづきである」と始めている。

歌の象徴するものを具体的には述べていないが、低く迫った暗い空の向こうに、わずかな慰めとも希望ともいえないが、澄みとおった空のある所に注目した作者の心情が推し量られる。

「雪ぐもりひくく暗きに」

「雪ぐもりひくく暗きに」と、二句までで暗い空の様子を表した後、「ひんがしの」と転換してつないでいる。

同じ雪空を表すこの部分に「き」を二回続けており、同一の内容を音韻でも続けていることがわかるだろう。

「暗きに」は、「暗いところに」あるいは「暗いのに」の意味か。

「暗き」と名詞として「に」と続けているところも注意。

「ひんがしの空ぞ」

「ぞ」は強意の助動詞で、東の空の一部分であるところが強調されている

その東の空が一面に明るくなっているのではなくて、「はつかに」となっている。そのほんのわずかな晴れ間に心を遣る作者の心情がある。

低く暗い空は、東の空と対照されるために置かれているのがわかるのが、三句以下である。

その理由は「はつかに澄みとほりたる」で初めてわかるようになっている。

暗い空と、澄みとおった東の果ての空は、初句から結句までの”距離”と歌の上での時間的な間があり、それが、遠く見渡す空の広さと、澄んだ空までの距離をも示している。

初句と結句にそれぞれ「雪曇りの空」と「澄みとおった(空)」のそれぞれの要素を離して置くことによって、歌の示す空間と作者の視点の移動に、最大限の広がりを持たせているところが素晴らしい。

一連の四首目に、同じ情景をん詠んだ

くもり日の低空(ひくぞら)のはてに心こほしきあかがねいろの空はれわたる

もあるが、「心こほしき」という主観句を含むものと、当該歌の情景だけを写生したものとも比較されたい。

 

斎藤茂吉自註『作家四十年』より

やはり艱難生活のつづきである。雪曇り空の暗く重いのに、東方の一線に澄んだところの見えてきた趣である。--『作歌四十年 自選自解 斎藤茂吉』

佐藤佐太郎の解説

雪ぐもり」は雪もよいの曇り空であるが、今にも雪が降りそうな気配であるのは「ひくく暗きに」と続く二句によってわかる。

それでいて、東方に晴れた部分が見えている。つまり気象の異常にあらあらしい寒い夕方であることがわかる。

そういうようにして、東の低いところにのぞいている浅葱色の狭い晴れ間が心にひびくというのである。

天象のことだけをいった歌だが、何となく切実である。風景そのものが厳しくもあり、また、その頃の艱難な生活を背景とした、作者の心の状態がどこかに反映している点もあるのだろう。--「茂吉秀歌」佐藤佐太郎

一連の歌

罪ふかき我にやあらむとおもふなり雪ぐもし空さむくなりつつ

おもおもとたたなはりにし雪ぐもり雪ははだらに降りくるらむか

くもり日の低空(ひくぞら)のはてに心こほしきあかがねいろの空はれわたる




-ともしび

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