斎藤茂吉には、夢を詠んだ短歌がいくつもあります。
斎藤茂吉の夢の短歌をまとめてご紹介します。
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斎藤茂吉の夢の短歌
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斎藤茂吉には興味深いことに、夢を詠んだ短歌がいつくもあります。
折々に見た夢の内容を書き留めるかのような歌が多く見られます。
斎藤茂吉の夢の短歌一覧
昼ごもり独りし寝れど悲しもよ夢を視るもよもの殺すゆめ『あらたま』
午前二時ごろにてもありつらむ何か清々しき夢を見てゐし『ともしび』
いめのごとき薄ら雲らも或る時は紅葉の紅き山にいさよふ『暁紅』
よもすがらあやしき夢を見とほしてわれの病はつのらむとする『白き山』
熱いでてこやれる夜の明けがたみ焼けぬ東京の夢さへぞ見し 『白き山』
五月はじめの夜はみじかく夢二つばかり見てしまへばはやもあかとき『白き山』
昼ごもり独りし寝れど悲しもよ夢を視るもよもの殺すゆめ
歌集『あらたま』「折々の歌」所収の歌。
昼寝をしていて心穏やかでない夢を見る。それも「もの殺す」夢であるという。
「もの」とは何かは、わからないものの、背景に鬱屈した気持ちがあることが察せられるだろう。
午前二時ごろにてもありつらむ何か清々しき夢を見てゐし
歌集『ともしび』所収の歌。
目が覚めてから夢の内容を回想する歌で、内容は作者自身もわからないながら、すがすがしい気分だけが残るというもの。
茫洋とした記載がいかにも夢らしい。
いめのごとき薄ら雲らも或る時は紅葉の紅き山にいさよふ
歌集『暁紅』。
佐藤佐太郎らが秀歌とする歌。美しい情景が擬人化した雲を主体に詠われる。
「いめ」「雲ら」「いさよふ」の言葉の選択も意図的になされている。
一首の詳しい解説:
いめのごとき薄ら雲らも或る時は紅葉の紅き山にいさよふ
よもすがらあやしき夢を見とほしてわれの病はつのらむとする
歌集『白き山』。
作者は疎開先で肋膜炎を病み、高熱にうなされた折の病中詠。
「熱いでてこやれる夜の明けがたみ焼けぬ東京の夢さへぞ見し」との具体的な内容を述べたものもあるが、この夢は「あやしき夢」と抽象化された表現を取る。
夢の内容によって、病の重篤さを伝えている。
五月はじめの夜はみじかく夢二つばかり見てしまへばはやもあかとき
歌集『白き山』所収。『白き山』から塚本邦雄の『茂吉秀歌』にも取り上げられている歌。
一見、韻律も調わず、口から出まかせのたはごとを、三十一音らしくまとめたに過ぎないようだが、その正体のなさに、返って言い難い諧謔とあわれをこもごと感じる、不思議な一首である。『茂吉秀歌』塚本邦雄
主題は、春の夜の短さであるが、それを計る「夢二つ」の淡い儚さがある。