よる更けてふと握飯くひたくなり握飯くひぬ寒がりにつつ 斎藤茂吉の短歌集『赤光』にあるおもしろい作品です。
斎藤茂吉の握飯の短歌をご紹介します。
スポンサーリンク
よる更けてふと握飯くひたくなり握飯くひぬ寒がりにつつ
作者と出典
斎藤茂吉 『赤光』大正元年 「犬の長鳴」
斎藤茂吉の作品と生涯については
斎藤茂吉の作品と生涯 特徴や作風「写生と実相観入」
斎藤茂吉『赤光』代表作一覧 現代語訳付き
一首の意味
夜遅くなって、ふとおにぎりが食べたくなり、握飯を食べた、寒がりながら。
解説と鑑賞
意味は夜遅くなって仕事をしていた作者が、空腹を覚えて、自ら台所に行って、おにぎりをこしらえて食べた、という場面。
斎藤家には女中もいますが、もう休んでいる夜更けのことです。
おそらく、自分でおにぎりをさっとこしらえたと思われます。
人の寝静まる頃ですので、台所には火が入っていない。「寒がりにつつ」が臨場感があります。
この歌の次に
われひとりねむらむとしてゐたるとき外(そと)はこがらしの行くおときこゆ
があります。
「われひとり」というのは、他の人が皆寝静まっている、そして、自室には自分ひとりである。
そういう時に聞こえてくるのは、人の寝息や物の音ではなくて、ただ、木枯らしの音だけ。
斎藤茂吉は婿養子候補として斎藤家に入ったものの、まだこの頃は婿となることが定まらず、妻てる子とは同じ敷地内の別々の建屋に暮らしていたようです。
さびしくも、夜中の台所で一人おむすびを食べて、寝につく作者の姿が浮かんできます。
一連の歌
犬の長鳴
よる更けてふと握飯(にぎりめし)くひたくなり握飯(にぎりめし)くひぬ寒がりにつつ
われひとりねむらむとしてゐたるとき外(そと)はこがらしの行くおときこゆ
遠く遠く流るるならむ灯をゆりて冬の疾風(はやち)は外面(とのも)に吹けり
長鳴くはかの犬族(けんぞく)のなが鳴くは遠街(をんがい)にして火かもおこれる
さ夜ふけと夜の更けにける暗黒(あんこく)にびようびようと犬は鳴くにあらずや