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うつつにしもののおもひを遂ぐるごと春の彼岸に降れる白雪 斎藤茂吉

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うつつにしもののおもひを遂ぐるごと春の彼岸に降れる白雪 斎藤茂吉の歌集『暁光』にある美しい短歌です。

永井ふさ子との恋愛を背景に詠われた斎藤茂吉の春彼岸の短歌の鑑賞と解説を記します。

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斎藤茂吉の記事案内

歌人斎藤茂吉については
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うつつにしもののおもひを遂ぐるごと春の彼岸に降れる白雪

読み:
うつつにし もののおもいを とぐるごと はるのひがんに ふれるしらゆき

作者と出典:斎藤茂吉 歌集『暁紅』

語句と表現技法

・うつつにし…「うつつ」は現実のこと。「に」は助詞

「し」は、強意の副助詞」。この場合は、音調を整えるために用いたと思われる

・もののおもい…「思いを遂げる」に「ものの」とつけたもの

「うつつ」「ものの」の音調と、「な行」の音の連続の柔らかい感じ

・遂ぐるごと…現代語は「とげる」 文語では「とぐ」が基本形

活用は{げ/げ/ぐ/ぐる/ぐれ/げよ}の連体形

「ごと」は、「~何々のように」

 

・降れる…「降る」に存続の助動詞「り」

「とぐる」と「ふれる」を連続させている

 

解説と鑑賞

斎藤茂吉の春彼岸の歌としてよく知られる有名な作品。

斎藤茂吉はこの頃、永井ふさ子と知り合い、恋人同士となっていた。

斎藤茂吉は既に50代で、悩みも多かったが、妻と不仲であった茂吉に恋愛の成就に違いなく、大きな出来事であったと思われる。

上はそのために生れた一首で、安定した心境を思わせる美しい歌となっている。

春彼岸の雪

ベースとなっているのは、春に思いがけなく雪が降ったという出来事で、そのような気象上のハプニングは誰にとっても珍しい事だが、それを自分の出来事に引き付けて詠ったところは以下にも歌人らしい。

「うつつにしもののおもひを遂ぐる」というのは、作者自身の願いが叶うこと、恋愛が成就したことを指すと思われるが、直截な言い方を避けて、「おもひを遂げる」との表現が良い。

「うつつにし」の初句は「現実に」の意味だが、「おもひを遂げる」の導入の枕詞的な意味合いもあるだろう。

美しい短歌の調べ

声調に関しては、「つつ」「のの」の連続する音、「遂ぐる」「降れる」のラ音を含む類似の音を重ねて、全体的に柔らかい音で歌の内容を表現している。

まだ恋愛の初期の、ほのかな恋情の漂う、美しい歌となっている。

斎藤茂吉の自註

「春彼岸に思い切り降った雪を見て、「うつつにしもののおもひを遂ぐるごと」と言った。何か現実に願の成就するような心持ちに似ているというのである」(作者自註)

佐藤佐太郎の短歌評

降る雪を見る作者の充足感を表現した「もののおもひを遂ぐるごと」が見事である。芸術論で「感情移入」というが、その最も美しい例がここにあるといってもいいだろう。

「うつつにしもののおもひを遂ぐるごと」には言葉のひびきが長く、しかも沁み徹ってくる悲哀がある。雪をこのような面から感じ、捉えるのは、やはり若い頃とちがう年輪である。

 

『暁紅』の一連の短歌

うつつにしもののおもひを遂ぐるごと春の彼岸に降れる白雪

くれなゐに咲き足らひたる梅の花や触れむばかりに顔ちかづけぬ

かぎろひの春逝きぬればわれひとり楽しみにして居る茱萸の青き實

くれなゐのこぞめの色にならむ日をこの鉢茱萸に吾は待たむぞ




-暁紅

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