木立より雪解のしづく落つるおと聞きつつわれは歩みをとどむ
斎藤茂吉『白桃』から主要な代表歌の解説と観賞です。
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斎藤茂吉 三時代を生きた「歌聖」
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木立より雪解のしづく落つるおと聞きつつわれは歩みをとどむ
読み:こだちより ゆきげのしずく おつるおと ききつつわれは あゆみをとどむ
意味と現代語訳
木立の方から雪が溶けて落ちるしずくの音が聞こえてきて、私は歩むのをやめて耳を傾けた
作者と出典
斎藤茂吉 『白桃』
歌の語句
・木立…立ち並んで生えている木のこと
・雪解…暖かくなって積もった雪がとけること。 また、その季節のこと。
・しづく…水のしずく。漢字なら雫。「づ」は旧仮名遣いで、新仮名遣いのしずくの「ず」。「しづく」の後には、主郭の「の」(または「は})が省略されている
・おと…「音」だが、ここではひらがな表記になっている。「音を」の目的語を示す「を」の助詞は省略されている
・つつ…接続助詞《接続》動詞および動詞型活用の助動詞の連用形に付く。
〔複数動作の並行〕…しながら。…する一方で。
・歩み…名詞。 動詞は「歩む」
・とどむ…現代語なら「とどめる」の文語の基本形
短歌の修辞法と表現技法
・句切れなし または3句切れ
・「音」とせずに、「おと」とひらがな表記にしたところに注意。雪解けの音のある種の柔らかさやのどかさが強調される。
解釈と鑑賞
静まり返った道をあるいてくると、木立の方からそこだけ音がする。
雪解けの雫の音だと気がついて、そのまま通り過ぎずに、歩みを止めたという作者の行為がそのまま詠まれている。
雪解けの音に心が和むような気持ちになったのだろう。
結句は「歩みをとどむ」となっていて、一首の構成と順序は、聞きながら、やや歩みが遅くなり、その音に心惹かれてとうとう立ち止まったという時間経過が察せられる。
歌集『白桃』には他に、
冬木立いでつつ来れば原にしもまどかに雪は消えのこりたる
「雪解」の語を用いた歌には、
音たてて山の峡よりいでてくる雪解の水は岸を浸せり
あふれつついきほふ春の雪解水山笹の葉を常なびかしむ
などがあるが、この歌はいかにものどかな雪解の「おと」にポイントがある。
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