見はるかす山腹なだり咲きてゐる辛夷の花はほのかなるかも
斎藤茂吉の歌集『赤光』「死にたまふ母」から其の4の短歌に現代語訳付き解説と観賞を記します。
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※斎藤茂吉の生涯と代表作短歌は下の記事に時間順に配列しています。
見はるかす山腹なだり咲きてゐる辛夷の花はほのかなるかも
現代語での読み:みはるかす やまはらなだり さきている こぶしのはなは ほのかなるかも
作者と出典
斎藤茂吉『赤光』「死にたまふ母」 其の4 14首目の歌
現代語訳
遙かにみわたす山の斜面に咲いている辛夷の花がほのかであるのだなあ
歌の語句
・みはるかす・・・はるかにに渡す
・山腹なだり・・・山の傾斜
・なだり・・・動詞「なだる」の古い形の連用形
・辛夷(こぶし)の花・・・モクレン科の落葉樹
ヤマアララギともいい、春先に香りの良い白い花が咲く
・かも・・・詠嘆の終助詞
句切れと表現技法
・2句切れ
解釈と鑑賞
歌集『赤光』「死にたまふ母」の其4の14首目の歌。
作者茂吉は母の火葬の後、蔵王山の高湯温泉の旅館に滞在して帰京した。
周辺の山を散策する場面に母を亡くしたばかりの心境が反映されている。
一首の情景
山の斜面をみはるかすと、辛夷の花が咲いていたという情景だが、歌の語順はいくらか複雑で、結句の「ほのかなるかも」が強調されるように作られている。
「ほのか」の語
「ほのか」の言葉は、一連の2首目「ほのかなる通草(あけび)の花の散るやまに啼く山鳩のこゑの寂しさ」にもみられる。
一連では花の「ほのかさ」に作者が心を引かれていることがわかる。
あたかも亡くなったばかりの母に供える花として様々な花を配置したかのようだ。
蔵王山の場所
一連の歌
寂しさに堪へて分け入る山かげに黒々(くろぐろ)と通草(あけび)の花ちりにけり
見はるかす山腹なだり咲きてゐる辛夷(こぶし)の花はほのかなるかも
蔵王山(ざわうさん)に斑(はだ)ら雪かもかがやくと夕さりくれば岨(そば)ゆきにけり