たまくしげ箱根の山に夜もすがら薄をてらす月のさやけさ
斎藤茂吉『ともしび』から主要な代表作の短歌の解説と観賞。大正14年作の一連は山の自然に親しむ作者の心の喜びが詠われている。
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たまくしげ箱根の山に夜もすがら薄をてらす月のさやけさ
読み:たまくしげ はこねのやまに よもすがら すすきをてらす つきのさやけさ
歌集 出典
斎藤茂吉『ともしび』 箱根漫吟
歌の意味と現代語訳
箱根の山に一晩中すすきを照らしている月の光のすがすがしいことよ
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斎藤茂吉『ともしび』短歌代表作品 解説ページ一覧
歌の語句
- たまくしげ…箱根にかかる枕詞
- 夜もすがら…一晩中 類語に「日すがら」がある
- 薄…ススキの漢字
- さやけさ…形容詞「さやけし」の名詞形 すがすがしいの意味
修辞・表現技法
- 句切れなし
- 体言止め
解説と鑑賞
大正14年作。「箱根漫吟の中其一」の中の一首。
箱根強羅の山荘に来た折の作品。
作者自身の『作歌四十年』には含まれていない。
「たまくしげ」は箱にかかる枕詞で「箱根」にも使われる。
歌の意味は箱根の山の上に、遮るものものなく、月の光が照り渡っている。
風にそよぐ薄しかない山の上に一晩中その光が当たっているが、静かですがすがしいという情景で、余計なものが描写されていない。
そのため、山の上の無人の静けさと自然だけに焦点が当たっている。
他に月の光を詠んだものは一連に
しづかなる峠をのぼり来しときに月のひかりは八谷をてらす
がある。
こちらの歌は、作者自身の移動を含めて、月の光に出会った最初の感動を表す。
対する薄と月光の歌は、ひと晩山の山荘に過ごした時の風景を詠むもので、作者は見る主体となってそこにはおらず、山の薄とそれを照らす月だけの静止画となっている。
源実朝の本歌取り
なお、斎藤茂吉が解説を記した源実朝の歌には、
玉くしげ箱根の山の郭公むかふの里に朝な朝な鳴く
がある。
斎藤茂吉自註
斎藤茂吉自註『作家四十年』には前後の歌はあるが、この歌については述べられていないが、一連について下のような記載がある。
自分はここにきて、連日ここの自然に親しみ、歌も多く作った。ここの自然は如何なものでも自分には珍しく、感動の種であった。月光も虫声も驚嘆すべく、かつて信濃富士見で作った歌のような調べが此処の歌に見えるのも、久々にそういう感動がよみがえったからにほかならぬのである。
一連の歌