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橡の樹も今くれかかる曇日の七月八日ひぐらしは鳴く『あらたま』斎藤茂吉

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橡の樹も今くれかかる曇日の七月八日ひぐらしは鳴く 斎藤茂吉の第二歌集『あらたま』の代表的な短歌作品の一つ。

斎藤茂吉の短歌の解説と観賞を一首ずつ記します。

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斎藤茂吉の作品案内

この歌の掲載されている歌集『あらたま』一覧は 『あらたま』斎藤茂吉短歌一覧 現代語訳付き解説と鑑賞  にあります。

※斎藤茂吉の生涯と代表作短歌は下の記事に時間順に配列しています。

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橡の樹も今くれかかる曇日の七月八日ひぐらしは鳴く

読み:とちのきも いまくれかかる くもりびの しちがつようか ひぐらしはなく

現代語訳と意味

橡の木も暮れかかっている夕ぐれ、曇りの日である今日七月八日、今年初めてのひぐらしが鳴いている

作者と出典

斎藤茂吉 歌集『あらたま』 大正2年 蜩

歌の語句

・橡(とち)…ムクロジ科トチノキ属の落葉広葉樹 都市部の街路樹

・くれかかる…「暮れる+かかる」の複合動詞 「暮れかかっている」「暮れ始めている」の意味。

・七月八日…24季節では小暑にあたる、ここでは蜩の鳴いた火。

 

句切れと表現技法

・4句切れ

・「くれかかる」は「曇日」にかかる連体形

 

解釈と鑑賞

第二歌集『あらたま』の代表的な作品に含まれる一首。

橡の樹は、作者の身近にあったらしく、橡を詠んだ歌は『あらたま』に他にも

かんかんと橡の太樹の立てらくを背向(そがひ)にしつつわれぞ歩める

がある。

蝉の鳴き始めた日

蝉の鳴き始めた日を詠んだ歌は他にもある。

ひぐらしのはじめて鳴きしけふの日を記るす七月十五日ゆふぐれ『のぼり路』

西とほくこもる光の消えながら七月三日かなかな嗚きつ 『つきかげ』

「記す」というのは、おそらく日記に書いたのではないだろうか。

他の蝉ではなくて、蜩の鳴き声が気に入っていたのではないかと思われる。

晩年の蝉の声を詠んだ歌

老いづきてわが居る時にのこえわれの身ぬちを透りて行きぬ

この蝉の声もおそらく蜩であったろう。

一連は、勤務していた病院の宿直の折、夕暮れ鳴いた蜩であったようだ。

蜩は一とき鳴けり去年ここに聞きけむがごとこゑのかなしき

去年は、蜩が鳴いたという歌はないようだが、作者は蜩の声にデジャビュに似たものを感じ、それを親しく懐かしいものとしている。

もちろん、鳴いて居る蜩は去年と同じではないのだが懐かしさがあるというのだろう。

こし方のことをおもひてむらぎもの心騒(さや)げとつひに空しき

そして一年の連鎖を蜩の声で思い起こすのだが、華やかな思い出もない。

蜩も続く歌の通りに度とは鳴かないまま日が暮れていくのであった。

一連の歌

一連の短歌

14 蜩
橡の樹も今くれかかる曇日の七月八日ひぐらしは鳴く
狂院に宿(とま)りに来つつうつうつと汗かきをれば蜩鳴けり
いささかの為事を終へてこころよし夕餉の蕎麦をあつらへにけり
土曜日の宿直(とのゐ)のこころ独りゐて煙草をもはら吸へるひととき
蜩は一とき鳴けり去年ここに聞きけむがごとこゑのかなしき
卓の下に蚊遣の香(こう)を焚きながら人ねむらせむ処方書きたり
こし方のことをおもひてむらぎもの心騒(さや)げとつひに空しき
ひぐらしはひとつ鳴きしが空も地(つち)も暗くなりつつ二たびは鳴かず




-あらたま

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