赤光

なげかへばものみな暗しひんがしに出づる星さへあかからなくに 斎藤茂吉「赤光」

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なげかへばものみな暗しひんがしに出づる星さへあかからなくに 斎藤茂吉「赤光」の連作「おひろ」から。

「赤光」に四十四首ある連作の大作を解説、鑑賞を記します。

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なげかへばものみな暗しひんがしに出づる星さへあかからなくに

読み:なげかえば ものみなくらし ひんがしに いづるほしさえ あかからなくに

現代語訳

嘆き続けていれば辺りのものは皆暗い。東の空に上る星さえ明るく見えないくらいに

出典

「赤光」大正2年 6 おひろ

歌の語句

  • なげかふ・・・なげく+反復継続の助動詞》嘆き続ける
  • ひんがし・・・東
  • あかからなくに・・・初版では「赤からなくに」
  • 「赤い」と同時に、「明し」明るいの意味
  • なくに・・・連語 ないことだなあ。
  • 文末に用いて、打消に詠嘆の意を込めて言い切る。

表現技法

2句切れ

…なくには万葉集の常套句を用いたもの

 

解釈と鑑賞

「赤光」で「死にたまふ母」と並ぶ代表作の連作「おひろ」の一首目。
交際のあった女性「おひろ」との別れを星に即して詠った。

佐藤佐太郎の解説

「ものみな暗し」といって、さらに「あかからなくに」といったのは、やや即しすぎているようにも感じられるが、どちらも詠嘆の語気であり、この強調があって一首が切実になっている。
二句で切迫したように強く切れ、三句をおおどかに起こして、結句を「あかからなくに」と重く据えた声調に心情さながらのひびきがある。(「茂吉秀歌」佐藤佐太郎)

一連の歌から

とほくとほく行きたるならむ電燈を消せばぬばたまの夜も更けぬる
ほのぼのと目を細くして抱かれし子は去りしより幾夜か経たる
あさぼらけひとめ見しゆゑしばだたくくろきまつげをあはれみにけり
しんしんと雪ふりし夜にその指のあな冷たよと言ひて寄りしか
この心葬りはてんと秀の光る錐を畳に刺しにけるかも
ひんがしに星いづるとき汝が見なばその目ほのぼのとかなしくあれよ

 

ほのぼのと目を細くして抱かれし子は去りしより幾夜か経たる

読み:ほのぼのと めをほそくして いだかれし こはさりしより いくよかえたる

現代語訳

ほのぼのと目を細めてわが腕に抱かれていた子が去ってから幾夜かが過ぎた

出典

「赤光」大正2年 6 おひろ 其の2

歌の語句

経たる・・・連用形

表現技法

句切れなし
結句連用形止め

 

解釈と鑑賞

おひろ其の2の回想部分冒頭の一首。

佐藤佐太郎の解説

きわめて感覚的で、少女の姿態までありありと感じられる。現身の肉体というものを除外して恋愛はあり得ないから、こういうひたむきな表現になったのだが、この感覚的要素は、「ほのぼのと」という虚語を交え、「幾夜か経たる」など追懐的感動の語気の中に融けこんでいる、そのために感覚的でありながら肉感的ではない。
短歌における官能的表現の限界ということを考えさせるだろう。「目を細くして抱かれし」などといっても肉感的でないのは、抒情詩としての短歌の性格であり、そういう「すさまじさ」を否定する作者の用意があったからである。(「茂吉秀歌」佐藤佐太郎)

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