山かげに消のこる雪のかなしさに笹かき分けて急ぐなりけり
斎藤茂吉の歌集『赤光』「死にたまふ母」から「其の4」の短歌に現代語訳付き解説と観賞を記します。
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※斎藤茂吉の生涯と代表作短歌は下の記事に時間順に配列しています。
山かげに消のこる雪のかなしさに笹かき分けて急ぐなりけり
現代語での読み:やまかげに けのこるゆきの かなしさに ささかきわけて いそぐなりけり
作者と出典
斎藤茂吉『赤光』「死にたまふ母」 其の4 7首目の歌
現代語訳
山かげにひっそりと消え残っている雪を悲しくも思いながら笹をかき分けて急ぐのだった
歌の語句
・山かげ…山は蔵王山 「かげ」は日の当たらないところ
・消のこる…読みは「けのこる」「消+のこる」 基本形は感じが「消」で「く」。
・かなしさ…「悲し」または「愛し」
句切れと表現技法
・句切れなし
解釈と鑑賞
歌集『赤光』「死にたまふ母」の其の4 6首目の歌。
作者茂吉は母の火葬の後、温泉の旅館に滞在して帰京した。
「山かげ」の山は蔵王山の中腹、山湯温泉に向かう途中の景色で、蔵王の山道の様子であろう。
雪に湧く悲しさ
春になったとはいえ、山の陰にあたる部分ではその山道に雪がまだ残っている。
その白く清い様子に母の亡くなったことが思われて、作者は悲しみに突き動かされるように、笹をかき分けて山道を急ぐ。
母に会えるわけではないが、悲しみが衝動を生んでいるのであろう。
この歌は、次の「笹はらをただかき分けて行き行けど母を尋ねんわれならなくに」につながるものである。
なお、茂吉が向かったのは、親類筋の経営するわかまつや旅館であったと思われる。
「死にたまふ母」の多くはそこに滞在中に記されたと伝わっている。
蔵王山の場所
一連の歌
酸(すゆ)き湯に身はかなしくも浸(ひた)りゐて空にかがやく光を見たり
山かげに消(け)のこる雪のかなしさに笹かき分けて急ぐなりけり