火のやまの麓にいづる酸の湯に一夜ひたりてかなしみにけり
斎藤茂吉の歌集『赤光』「死にたまふ母」から其の4の短歌に現代語訳付き解説と観賞を記します。
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※斎藤茂吉の生涯と代表作短歌は下の記事に時間順に配列しています。
火のやまの麓にいづる酸の湯に一夜ひたりてかなしみにけり
現代語での読み:ひのやまの ふもとにいづる さんのゆに ひとよひたりて かなしみにけり
作者と出典
斎藤茂吉『赤光』「死にたまふ母」 其の4 8首目の歌
現代語訳
火の山である蔵王山のふもとに湧く酸性の温泉に一晩ひたって母をかなしんだのであったよ
歌の語句
・火の山…山は蔵王山
・酸の湯…酸性泉 温泉
・一夜…ひと晩
かなしみにけりの品詞分解
「かなしむ」自動詞+「ぬ」完了の助動詞¥「けり」詠嘆の終助詞
句切れと表現技法
・句切れなし
・「ひ」の音の連続 以下に解説
解釈と鑑賞
歌集『赤光』「死にたまふ母」の其の4 8首目の歌。
作者茂吉は母の火葬の後、温泉の旅館に滞在して帰京した。
「火の山」は蔵王山
蔵王は火山活動によって形成された複合火山群で、気象庁の常時観測火山に含まれている。
それを「火の山」と詩的な言葉で表現した。
「酸の湯」のバリエーション
作者茂吉が滞在した高湯温泉を麓と位置し、酸性泉を「酸の湯」としている。
一連では、「酸っぱき湯」(初版)「酸(すゆ)き湯」と様々に言い換えている。
滞在したのはひと晩ではないが、ここでは最初の夜の感慨を「かなしみにけり」として回想する形で詠んでいる。
ハ行の音韻
この歌では「ひのやま」「ふもと」「ひとよ」「ひたりて」と語の頭にハ行の音が揃えられている。
蔵王山の場所
一連の歌
酸(すゆ)き湯に身はかなしくも浸(ひた)りゐて空にかがやく光を見たり
山かげに消(け)のこる雪のかなしさに笹かき分けて急ぐなりけり