朝さむみ桑の木の葉に霜ふりて母にちかづく汽車走るなり
斎藤茂吉の歌集『赤光』「死にたまふ母」から、現代語訳付き解説と観賞を記します。
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※斎藤茂吉の生涯と代表作短歌は下の記事に時間順に配列しています。
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朝さむみ桑の木の葉に霜ふりて母にちかづく汽車走るなり
現代語での読み:あささむみ くわのこのはに しもふりて ははにちかづく きしゃはしるなり
現代語訳
みちのくの朝は寒く、桑の木の葉に霜がふっているその寒さの中を母に近づく汽車は走っているのだ
出典
『赤光』「死にたまふ母」 其の一 9番目の歌
歌の語句
・さむみ・・・寒いので
辞書の記載だと
さむ-み 【寒み】 形容詞「さむし」の語幹+接尾語「み」 意味は「寒いので」※以下に解説
・走るなり…「走る+なり」 「なり」は断定の助動詞
句切れと表現技法
- 句切れなし
解釈と鑑賞
歌集『赤光』の其の一の第9首目の歌。
一連は時間順に読まれており、夜行列車に乗った作者が、電車の中で朝を迎え、外の景色を見ながら、母に近づいていることを実感する。
「桑の木の葉」の桑とそれを食べる蚕は、この後も何度も登場する植物で、一連に統一感を与える事物でもあり、後者の短歌の布石ともなっている。
「朝寒み」の意味
「朝寒み」は「朝が寒いので」の意味となる言葉だが、「朝が寒いので桑の木の葉に霜が降った」というだけではなく、作者は、朝が寒いので、そのため「母の列車が走っている」という因果関係を含ませていると品田悦一、塚本邦雄の解説にある。
一連の歌
たまゆらに眠りしかなや走りたる汽車ぬちにして眠りしかなや
吾妻(あづま)やまに雪かがやけばみちのくの我が母の國に汽車入りにけり
朝さむみ桑の木の葉に霜ふりて母にちかづく汽車走るなり
沼の上にかぎろふ青き光よりわれの愁(うれへ)の来(こ)むと云ふかや 白龍湖
上(かみ)の山(やま)の停車場に下り若くしていまは鰥夫(やもを)のおとうとを見たり