あやしみて人はおもふな年老いしショーペンハウエル笛ふきしかど
斎藤茂吉『白桃』から主要な代表歌の解説と観賞です。
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斎藤茂吉の短歌案内
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斎藤茂吉の作品の特徴と作風「写生と実相観入」
あやしみて人はおもふな年老いしショーペンハウエル笛ふきしかど
読み:あやしみて ひとはおもうな としおいし しょーぺんはうえる ふえふきしかど
意味と現代語訳
ショーペンハウエルが年老いてフルートを吹くといっても、それを人たちは、おかしく奇妙なことのように思ってはならない
作者と出典
斎藤茂吉 『白桃』
歌の語句
・あやしむ…不思議に思う。奇妙に思う
・笛…実際の楽器はフルート
短歌の修辞法と表現技法
・2句切れ
・倒置
解釈と鑑賞
歌集『白桃』の中の「青野」8首のうちの1首。
ショーペンハウエルはドイツの哲学者で、その伝記中にあったエピソードで、ショーペンハウエルが晩年、イタリアのベネチアでフルートを吹いたという記述を元にしている。
老年のショーペンハウエルは、食後や欠き物の跡にフルートを吹くことを日課としていた。
ショーペンハウエルは厭世哲学で知られているので、そのようなささやかな楽しみがあったということそのものが意外なところなのだが、それを自然なものとして「あやしみて…思ふな」と戒める内容となっている。
瑣末な一面ではあるが、人の生活や人生への受容と肯定が滲む。
佐藤佐太郎の評
佐藤佐太郎はこの歌の主題について
厭世哲学を唱えた鉄人が、老境になって、のんきそうに笛を吹いたりしたが、人生は複雑で計り知れないという感想が多くの方に潜んでいるのだろう。人には作者自身を込めているとみていい。そして「おもふな」と言ってショーペンハウエルの行為を肯定して、これが人生だとでもいうような考えを表白している。短歌の形式は単純であるが短い言葉だからかえって暗示的に響くところが良い。佐藤佐太郎著『茂吉秀歌』より