どくだみも薊(あざみ)の花も燒けゐたり人葬所(ひとはふりど)の天(あめ)明(あ)けぬれば
斎藤茂吉の歌集『赤光』「死にたまふ母」から其の3の短歌に現代語訳付き解説と観賞を記します。
スポンサーリンク
斎藤茂吉の記事案内
『赤光』一覧は 斎藤茂吉『赤光』短歌一覧 現代語訳付き解説と鑑賞 にあります。
「死にたまふ母」の全部の短歌は別ページ「死にたまふ母」全59首の方にあります。
※斎藤茂吉の生涯と代表作短歌は下の記事に時間順に配列しています。
どくだみも薊の花も焼けいたり人葬所の天明けぬれば
現代語での読み:どくだみも あざみのはなも やけいたり ひとほうりどの あめあけぬれば
作者と出典
斎藤茂吉『赤光』「死にたまふ母」 其の3 13首目の歌
現代語訳
火葬場の朝が明けたので見ると、母を焼いた火でどくだみもあざみも焼けていたのであった
歌の語句
・どくだみ…野草の一種 葉を薬草などに使い、強いにおいがある草
・あざみ…青紫の花をつける植物
・焼けいたり…原文旧仮名は「焼けゐたり」。「焼ける+をり」と存続の助動詞「たり」
・人葬所…「ひとほうりど」と読む。「火葬場」を和語風にした作者の造語と思われる
・朝明けぬれば…基本形「明く」に完了の助動詞「ぬ」。「ば」は順接確定条件の接続助詞
句切れと表現技法
- 3句切れ
- 倒置
技法については以下に解説
解釈と鑑賞
歌集『赤光』の其の3の最後 14首目の歌。
母の火葬が終わり、火葬場を立ち去ろうとする時の風景を詠んだ歌。
火葬の火の勢いで、火葬をした付近の植物が焼け焦げていたという描写に、人を焼く火のすさまじい勢いがほうふつとする。
さらに、ドクダミの持つ強い匂いは、火葬場の火や薪の焼ける匂いをも連想させ、五感に生々しく訴えるものがある。
植物の選択はもちろん、それ以外にも、さまざまに作者の工夫が凝らされた一首。
「どくだみ」と「あざみ」の濁音
植物は「どくだみ」と「あざみ」とどちらも濁音を含む音が詠み込まれ、かつ、どちらも「-み」で終わる音韻が揃っている。
そこに「も」の助詞がつき、「みも…み…も」との連続となる。
人葬所の大和言葉
次の名詞は「かそうば」とはせずに、「人葬所 ひとほふ(う)りど」として、音読みではなく、あえて柔らかい音の訓読みの和語を造語している。
さらに、「朝」ではなく、「天 あめ」の和語を用いて、「人葬所 ひとほふ(う)りど」と言葉を合わせ、「あめあけぬれば」も柔らかい音調となっている。
それによって、「どくだみ-あざみ」を含む、上句との対比をはかり、上句の音を強く印象付ける効果がある。
この歌の解説では、
前の歌から見ると写実的な一首で 特にどくだみやあざみを捉えた目は鋭い。単に雑草に対するあはれとはまた別のきびしい感情がここにはたらいている。 -『日本近代文学大系 斎藤茂吉集』
となっているが、これらの効果をもたらす作者の意図が十分に反映しているといえる。
一連の歌
ひた心目守(まも)らんものかほの赤くのぼるけむりのその煙はや
灰のなかに母をひろへり朝日子(あさひこ)ののぼるがなかに母をひろへり
蕗の葉に丁寧にあつめし骨くづもみな骨瓶(こつがめ)に入れしまひけり