『死にたまふ母』の連作59首は、斎藤茂吉の処女歌集『赤光』の短歌代表作です。
短歌の数は全部で全59首、時間順にあらすじを持って並んでいます。
この記事では、「死にたまふ母」のあらすじを示します。
短歌と合わせて読むと理解が深まります。
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『死にたまふ母』とは
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『死にたまふ母』は、斎藤茂吉が東雲堂書店から、1913年に初版を発行した『赤光』(しゃっこう)の中に収められた一連の短歌です。
全59首が其の一から其の四まで、場面を4つに分けて時間順に配置されています。
其の1 | 作者が母のいるみちのくの故郷に向かい駅に着くまで |
其の2 | 弱っている母に対面し母が亡くなるまで |
其の3 | 母の野辺送りと火葬を終えるまで |
其の4 | 葬儀を終えた作者が故郷を旅する場面 |
短歌の連作とは
連作というのは、短歌や俳句において、同じ主題で数首をつらね、全体として特別な味わいを出そうとする作り方、また、その短歌をいいます。
その場合、各歌の主題はバラバラではなく、一つのテーマ、または関連性があるのが特徴です。
必ずしも時間順である必要はありませんが、「死にたまふ母」の場合は、短歌は時間順に、母の死と葬儀、その後があらすじを追えるように、時間順に配置されています。
「死にたまふ母」連作のクライマックスは
「死にたまふ母」の連作4部作、一連59首のクライマックスは、弱っている母に対面し母が亡くなるまでの其の2です。
それ以外においては、母への思いはあっても、実在する母は登場しません。
よって、一連の最も有名な歌も、この「其の2」の部分にあります。
『死にたまふ母』あらすじ
それぞれのパートのあらすじを示します。
各歌の現代語訳と、解説ページは別にありますので、お好きなところから合わせてご覧ください。
「死にたまふ母」其の1のあらすじ
故郷山形を遠く離れてて東京に住む作者は、母が危篤であるとの知らせを受けて、実家のあるみちのく、山形県上山市に向かう。精神科医で多忙な作者は、夜にしか出立できない。車中の時間は長く、いろいろなものを見ながら作者は母への思いを巡らせる。
作者は、中学校のときに親類の養子になって東京へ移住、早くから母と別れていたので、なおいっそう母への思慕がつのるのだ。母が命のあるうちに、とにかくも母を見たい、その一心で急ぎに急いで、弟の待つ、家のある駅にたどり着くのだった。
その1の代表作短歌
吾妻(あづま)やまに雪かがやけばみちのくの我が母の國に汽車入りにけり
その1の短歌連作を現代語訳付きで読む
斎藤茂吉 死にたまふ母其の1 「ひろき葉は」~「上の山の」短歌集『赤光』代表作
「死にたまふ母」その2のあらすじ
実家に到着した作者は、病床の母と対面するが、母は話すこともできないほど弱っていて、死のときが近づいているのがわかる。
母の亡くなるまでを見守る作者は、母のそばをできるだけ離れずにいるが、弱っていく母を見ているのが耐え難く、生家の蚕の部屋を映ってはつかの間、気を紛らわす。
夜は母の隣に床を敷いて添い寝をするが、静けさの中聞こえてくる蛙の声は、作者の悲しみと重なり、その祈りは天まで届くかと思われる。
しかし、燕が軒に見える部屋の中、母はとうとう亡くなってしまう。
その2の代表作短歌
その2の短歌連作を現代語訳付きで読む
斎藤茂吉 死にたまふ母其の2 「はるばると」~「ひとり来て」短歌集『赤光』代表作
その3のあらすじ
母の亡骸を悲しみとともに葬ろうと、一同は野辺の道を通って棺を焼き場へと運ぶ。作者は、母を焼くためのたいまつを自ら持って、母の棺に点火するのであった。母の棺を包む炎を見つめるが、まるで自分の悲しみもまた燃えさかるように思われる作者。
歌を口ずさむ弟と共に燃える火を夜通し守り抜き、骨となってしまった母を集めて、明け方に葬りを終えるのだった。
その3の代表作短歌
はふり火を守りこよひは更けにけり今夜(こよひ)の天(てん)のいつくしきかも
さ夜ふかく母を葬(はふ)りの火を見ればただ赤くもぞ燃えにけるかも
その3の短歌連作を現代語訳付きで読む
斎藤茂吉 死にたまふ母其の3「楢若葉」~「どくだみも」短歌集『赤光』代表作
その4のあらすじ
母の葬儀を終えたあとの作者は孤独な心持ちのまま、母を探すかのように故郷の山に分け入る。作者が東京に去る前の子供の頃に見た、見慣れた植物が作者の心を癒やしてくれるようだ。
母に包まれるような温泉の湯の温み、素朴な故郷の食材に、悲しみは次第に沈潜していくが、母を失ったという作者の喪失感は癒やし難く、ふるさとの風物の中にも作者はしきりに「母よ母よ」と呼びかけるのだった。
その4の代表作短歌
笹原をただかき分けて行き行けど母を尋ねんわれならなくに
山ゆゑに笹竹の子を食ひにけりははそはの母よははそはの母よ
その4の短歌連作を現代語訳付きで読む
斎藤茂吉 死にたまふ母其の4「はるばると」~「ひとり来て」短歌集『赤光』代表作