読売新聞の俳壇から。
蝉しぐれ藤沢周平生れし地 新潟市 山田彦徳
吉野には吉野の声や蝉時雨 姫路市 浜野正美
どちらもきれいな句。「蝉時雨」という言葉自体が、まだ私にはすてき過ぎてまぶしい。山に面した家に過ごすようになって、毎日聞いているのだけれども。
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青柿を踏みもう許すことはない 神奈川県 石原美枝子
迫力に自分の中に残っている何かが思い起こされるような気がする。怒りの感情であっても、上手に表せるといいのだなと思う。
でで虫の無明に朝の光かな 八王子市 藤巻治郎
触覚が多いから見えているような気がしたが、かたつむりは目が見えないのだったか。
わが汗の玉畑土に吸われゆく 所沢市 岩田治助
作者は丹念に毎日土の色を見ているのだろう。そこに汗が散って一瞬土の色が変わる。
前田君子句集から
猫の仔をつまみあぐるに指二本
次の週
うつせみの未だやはらかき手足かな 佐倉市 薄隆
自分はたいていカサカサ音がするようなものしか知らない。
先日、雨戸の戸袋の下に、羽化前の蝉が一匹止まっていた。黒い目が見えたので、それと知れた。私はそれには手を触れずにそっと離れた。
次の日、再び生家を訪れて見てみると、テラスの上に蝉の殻が落ちていた。抜け出られないままになってしまう蝉もいると読んだので、無事に羽化できただろうことに安心した。
けれども巣立ちを終えた後の鳥の巣を見るように、蝉の殻と一緒にさびしい気持ちが残った。この作者もそう感じたのだったかしれない。