序詞とは 枕詞との違いと見分け方 和歌の用例一覧  

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序詞とは 枕詞との違いと見分け方 和歌の用例一覧

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序詞(じょことば)とは和歌に見られる修辞法の一つで、特定の語の前に置いて、比喩や掛詞、同音語などの関係にかかる言葉のことを指します。

難しいと言われる序詞の見分け方、見つけ方のコツと序詞と枕詞との違いを、和歌の用例を一覧で示して解説します。

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序詞とは

序詞(じょことば)とは和歌に見られる修辞法の一つで、特定の語の前に置いて、比喩や掛詞、同音語などの関係に係る言葉のことを指します。

関連記事:
和歌の修辞技法をわかりやすく解説

 

 

序詞と枕詞との違い

枕詞は「たらちねの」「あしひきの」「しきしまの」「ぬばたまの」など、単語一語で特定の決まった言葉です。

一方、序詞は単語ではなく一つの言葉を導くための文節を言います。

枕詞はほとんどが5文字ですが、序詞には文字数に決まりはありません。

また、決まった言葉でもないので各歌の意味と構成から判断をすることとなります。

長さ 文字数
枕詞 単語1語 多く5文字(4、6文字もあり)
序詞 文節単位 決まりはない

この違いは、用例を見ると一目瞭然ですので、実際の和歌で見てみましょう。

 

序詞の用例

序詞を使った和歌の用例です。
黒字で示したところが序詞です。

陸奥のしのぶもぢずり誰ゆゑに乱れそめにし我ならなくに

多摩川にさらす手作りさらさらに何そこの児のここだ悲しき

あしひきの山鳥の尾のしだり尾の長々し夜をひとりかも寝む

長さも、語句も様々であることがわかります。

序詞はおおむね2句、13文字以上あることが多いです。

枕詞の例

以下の黒字で示したところが、枕詞です。

あかねさす紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る

あしひきの山のしづくに妹待つと我立ち濡れぬ山のしづくに

から衣きつつなれにしつましあればはるばる来ぬるたびをしぞ思ふ

 

枕詞の方はおおむね5文字であるものが多いですが、「そらみつ」など4文字、他に6文字の例外もあります。

※枕詞について詳しくは
枕詞とは その意味と主要20一覧と和歌の用例

 

序詞の見分け方について

枕詞は「たらちねの」「あしひきの」と一度見ておけば、判別は難しくありませんが、序詞の見分けは難しいと言われます。

見分けのテクニックとしては出されそうな短歌は決まっているので、ざっと目を通しておくことがまずあげられます。

序詞の見分け方のコツ5つ

さらに、以下に見つけ方のコツをいくつか挙げておきます。

  • 序詞の3つのパターン
  • 「の」の連続など調べがなだらか
  • 時代によって掛詞の序詞が多い
  • 同じ音の連続があれば序詞の可能性
  • 序詞は初句にあることが多い

一つずつ以下に説明します。

 

序詞の3つのパターン

序詞を詳しく分類すると、似た音によるもの、掛詞によるもの、比喩によるものの3種類があります。

  • 似た音によるもの
  • 掛詞によるもの
  • 比喩によるもの

それを含めて、下のような特徴があります。

 

「の」の連続

・序詞の特徴の一つに「○○の○○の○○の」と「の」でつながれるものが多いことがあります。

その後に来るポイントとなる言葉が、導かれる対象となる言葉で、その前までが序詞です。

その部分の声調べはおおむねなだらかで”スラスラ読める”ものとなっています。

それは、序詞のその部分には意味がないので、無駄な強調をしないためです。

 

万葉集以外は、掛詞が多い

古今集、新古今集とその時代の技巧的な和歌においては、掛詞による序詞が圧倒的に多いです。

万葉集の方は、意味、すなわち比喩による序詞がまさります。

これは掛け言葉が短歌の技巧として使われた時代が、限定的で一時期だからです。

 

序詞には同じ音の連続がある

下の用例にあるように、「つらつら椿つらつらに」「あやめ草あやめも知らぬ」など、同じ音を持つ言葉の連続がある場合は、序詞の可能性があります。

 

序詞は初句にあることが多い

以下の用例を見るとわかりますが、下にあげた歌の序詞は、すべてが初句、歌の頭にあります。

歌の初めの方に、それらしい、一見意味のつながらないように見える節があったら、注意してみてください。

 

万葉集の序詞のある和歌

ここからは、序詞のある有名な和歌、短歌の一覧です。いくつか読んで見分け方のコツを見つけてください。

最初は万葉集の和歌からです

多摩川にさらす手作りの序詞

多摩川にさらす手作りさらさらに何そこの児のここだ悲しき
―万葉集 東歌

ポイント

似た音

  • 「さら」を導く

解説:
多摩川にさらす手作りさらさらに何そこの児のここだ悲しき/東歌の労働歌

 

あしびきの山鳥の尾のしだり尾のの序詞

あしびきの山鳥の尾のしだり尾の長々し夜をひとりかも寝む
―万葉集 柿本人麻呂

ポイント

  • 比喩
  • 尾が長い鳥をあげて「長々し」を導く

解説:
あしびきの山鳥の尾のしだり尾のながながし夜をひとりかも寝む/柿本人麻呂

夏野ゆく牡鹿の角のの序詞

夏野ゆく牡鹿の角の束の間も妹が心を忘れて思(も)へや
―万葉集 柿本人麻呂

ポイント

  • 比喩
  • 短い角のある動物をあげて「束の間」を導く

 

巨勢山のつらつら椿の序詞

巨勢山のつらつら椿つらつらに見つつ偲はな巨勢の春野を
―万葉集 坂門人足

ポイント

  • 似た音
  • 「つらつら椿」という名称をあげて「つらつら」を導く

解説:
巨勢山のつらつら椿つらつらに見つつ偲はな巨勢の春野を/万葉集の椿の短歌7首

 

新しき年の初めの初春の今日降る雪のの序詞

新しき年の初めの初春の今日降る雪のいやしけ吉事
―万葉集 大伴家持

ポイント

  • 比喩
  • 雪が積もること吉事の「重(し)け」を導く

解説:
新しき年の初めの初春の今日降る雪のいやしけ吉事/大伴家持/万葉集解説

 

夏の野の繁みに咲ける姫百合の知らえぬ恋は苦しきものその序詞

夏の野の繁みに咲ける姫百合の知らえぬ恋は苦しきものそ

―坂上郎女万葉集 巻八 1500番

ポイント

  • 比喩
  • 人知れず咲く花と秘めた恋

 

古今集・新古今集の序詞の和歌

古今集、新古今集の序詞のある有名な和歌の例です。

立ち別れいなばの山の峰に生ふるの序詞

立ち別れいなばの山の峰に生ふるまつとし聞かば今帰り来む

―中納言行平(16番) 『古今集』離別・365

ポイント

  • 掛詞のある序詞
  • 松と「待つ」とで「まつ」を導く

立ち別れいなばの山の峰に生ふるまつとし聞かば今帰り来む 中納言行平 現代語訳と解説

 

ほととぎす鳴くや五月のあやめ草の序詞

ほととぎす鳴くや五月のあやめ草あやめも知らぬ恋もするかな

―古今集・巻11・恋歌1・469 よみ人しらず

ポイント

  • 掛詞
  • 「あやめも知らぬ」とは 「あやなし=盲目」の意味

解説:
ほととぎす鳴くや五月のあやめ草あやめも知らぬ恋もするかな/句切れ掛詞解説

 

春日野の雪分けて生ひ出でくる草のの序詞

春日野の雪間(ゆきま)を分けて生ひ出でくる草のはつかに見えし君はも.

―古今・恋一・四七八・壬生忠岑

ポイント

  • 比喩
  • 「はつかも」を導く

この歌の詳しい解説は

春日野の雪間を分けて生ひ出でくる草のはつかに見えし君はも 壬生忠岑

わがせこが衣の序詞

わがせこが衣春雨ふるごとに野辺のみどりぞ色まさりける

―紀貫之 『古今和歌集』 巻1-0025 春歌上.

ポイント

  • 掛詞のある序詞
  • 「私の夫の衣を洗って張る」で 「春」を導く

 

百人一首の序詞の和歌

百人一首の序詞のある有名な和歌の例です。

瀬をはやみ岩にせかるる滝川の

瀬をはやみ岩にせかるる滝川のわれても末にあはむとぞ思ふ

―百人一首の77番、崇徳院

ポイント

  • 掛詞のある序詞
  • 川の分かれと「別れ」の「われ」を導く

瀬をはやみ岩にせかるる滝川のわれても末に逢はむとぞ思ふ 崇徳院

 

陸奥のしのぶもぢずり

陸奥のしのぶもぢずり誰ゆゑに乱れそめにし我ならなくに

―百人一首14番 河原左大臣

ポイント

  • 比喩
  • 模様の類似から「乱れ」を導く

解説:
陸奥のしのぶもぢずり誰ゆゑに乱れそめにし我ならなくに 河原左大臣

 

住の江の岸による波

住の江の岸による波よるさへや夢の通ひ路人目よくらむ

―百人一首の18番 古今集 藤原敏行朝臣

ポイント

  • 掛詞のある序詞
  • 「よる」と「夜」の掛詞 「夜」を導く

解説:
住の江の岸による波よるさへや夢の通ひ路人目よくらむ

他の百人一首の序詞一覧

13.筑波嶺の峰より落つる男女川恋ぞつもりて淵となりぬる

19.難波潟みぢかき芦のふしの間も逢はでこの世を過ぐしてよとや

27.みかの原わきて流るる泉川いつ見きとてか恋しかるらむ

39.浅茅生の小野の篠原しのぶれどあまりてなどか人の恋しき

46.由良のとを渡る舟人かぢをたえ行方も知らぬ恋の道かな

48.風をいたみ岩うつ波のおのれのみくだけてものを思ふころかな

49.みかきもり衛士のたく火の夜は燃え昼は消えつつものをこそ思へ

51.かくとだにえやはいぶきのさしも草さしも知らじな燃ゆる思ひを

58.有馬山猪名の笹原風吹けばいでそよ人を忘れやはする

77.瀬をはやみ岩にせかるる滝川のわれても末にあはむとぞ思ふ

88.難波江の芦のかりねのひとよゆゑみをつくしてや恋ひわたるべき

92.わが袖は潮干に見えぬ沖の石の人こそ知らねかわく間もなし

97.来ぬ人をまつほの浦の夕なぎに焼くや藻塩の身もこがれつつ

 

関連記事:
百人一首の枕詞が使われた和歌6首 現代語訳と解説

 

近代短歌の序詞の例

以下は、明治以降の近代短歌の序詞の例を参考までに挙げておきます。

馬追虫(うまおひ)の髭のそよろに来る秋はまなこを閉じて想ひみるべし
長塚節

ポイント:比喩
音のない意味の「そよろ」から静かに訪れる「秋」を導く

解説:
長塚節「秋の歌」の序詞について

 

髪五尺ときなば水にやはらかき少女ごころは秘めて放たじ
与謝野晶子

ポイント:比喩
水に浮く紙の様態から「やはらかき」を導く

解説:
髪五尺ときなば水にやはらかき少女ごころは秘めて放たじ 与謝野晶子解説

 

夕ぐれの三日月のうみ雲しづみ胸しづまりぬ妹に逢ひし夜は
伊藤左千夫

ポイント:似た音
雲の「沈む」から「しづまりぬ」を導く

終りに

序詞の見分け方のコツが少しでも伝わったでしょうか。

たくさんの歌に接して、短歌の修辞法に慣れてみてくださいね。




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