藤島秀憲短歌集『すずめ』から  

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藤島秀憲短歌集『すずめ』から

2018年2月3日

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藤島秀憲さんの短歌集『すずめ』から作品の抜粋です。
身近なことを題材にしながらも、美しい短歌です。

介護を題材にした作品については、こちらにもありますが、介護の短歌  藤島秀憲『すずめ』息子が一人で父を看取るまで の方をご覧ください。 

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藤島秀憲の歌集『すずめ』

吸い口の柚子の香っているような新月の夜をひと駅あるく
置時計よりも静かに父がいる春のみぞれのふるゆうまぐれ
鳥籠に小鳥のいない 十二年 父の記憶を母は去りたり
水仙の薫る小路を抜けてゆく朝の焼きたてコッペパンまで
かすみ草の種は いずこに蒔かんかなここ 百日草ここ金魚草
京都市と書いたところで山雀か声を聴きつつ左京区高野
焦げているとなりの煮物春の夜の窓と窓とが細目にひらく
花の降る町に来たれば父と吾に 一年先のある心地する
新聞の兜を父は折らんとす今度五十の息子のために
一年前には折れた兜が、くしゃくしゃの朝刊に「断固反対」の拳
父の匂い、わが家の匂い、分ちがたくて蝉しぐれ聞く
一羽かと見れば二羽いる目白かな われは苦しい恋をしており
雪になる予報がはずれ雨のまま会う人はみな雨をよろこぶ
権太郎坂ののぼりの日面で赤いバイクに 三度抜かれつ
ゆうがおの咲きても暮れぬ墨東に賀茂茄子田楽あつあつが来る
ショートステイより帰り来し父その夜のおむつ替えればすみませんと言う
湯気のたつごはんがあって父がいてあなたにたまに逢えて  生きてる
たばこ屋のおばさんがもう泣いている路地より父が運び出される
梅の香に百日百夜とあそびたる家をうつつを父去らんとす
明日からのデイサービスをキャンセルす父は塗り絵が大好きだった
二十八ページ目にしてその時が来たICUの扉が開く
母が逝き父が逝き二十四時間がわれに戻り来たまものとして
母を出で五十一年経つわれがひとりでひとり分を食いおり
枯れているだけど日にあて水をやる野ぼたんの鉢にもうしばらくは
みぞれふる菊坂われに肉親と呼べるひとりもなくみぞれふる
数々の短歌をわれに詠ましめし父よ雀よ路地よ さようなら
使用後の父のおむつの重みほど朝の市にて選る冬キャベツ
落としたる青きりんごを追わぬまま坂ある町に暮らしはじめる
幸せな四人家族でありし日をかえりみさする四本の鍵




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