現代短歌

冬の皺寄せゐる海よ今少し生きて己の無残を見むか 中城ふみ子の短歌代表作 歌集『乳房喪失』より

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中城ふみ子の短歌代表作をご紹介します。闘病の中でも恋愛を大胆に歌い続けた中城ふみ子、その短歌から人物像を探ります。

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中城ふみ子とは

中城ふみ子は、短歌研究五十首に応募、一位入選となったことで、名前を知られるようになります。

その後、歌集『乳房喪失』を出版。

作者は歌集を出版後、31歳にてまもなくなくなりますが、短歌研究五十首に入選した寺山修司や現代短歌界に大きな影響を与えました。

中城ふみ子の短歌の特徴

中条ふみ子の短歌の特徴は、乳がんで手術を受けたことと、その後も続く闘病が主題になっているものが多くを占めています。

歌集のタイトル『乳房喪失』もそのコンセプトを前面に打ち出したものですが、題名は編集者である中井英夫のすすめによるもので、中城の本意ではありませんでした。

もう一つのテーマは、複数の相手との大胆に見える恋愛の歌です。そのうちの後半の歌は、死期を意識した中で詠まれたものです。

中条ふみ子の短歌代表作をご紹介します。

 

失ひしわれの乳房に似し丘あり冬は枯れたる花が飾らむ

作者:中城ふみ子 歌集『乳房喪失』より

作者は乳がんを病み、乳房の手術を受けました。

われに似しひとりの女不倫にて乳削ぎの刑に遭はざりしや古代に

みづからを 虐ぐる日は声に唱ふ 乳房なき女の 乾物(ひもの)はいかが

大変に悲しいことでしたでしょうが、この作者の歌は、単に「悲しい」とは詠まず、真っ向から、自分の置かれた状況を詠んでいます。

不眠のわれに夜が用意しくるもの蟇、黒犬、水死人のたぐひ

灯を消してしのびやかに隣に来るものを快楽(けらく)の如く今は狎(な)らしつ

また、病勢が重くなると、不眠や幻覚に悩んだことも詠まれています。

 

冬の皺寄せゐる海よ今少し生きて己の無残を見むか

中城ふみ子の代表作と言える歌。

北海道の厳しい寒さの中で、風にさざ波が立つ海の様子に自らの命の時間を重ねます。

他にも、

救ひなき裸木と雪の景色果てし地点よりわれは歩みゆくべし

いずれも、短い残り時間が強い決意と共に併記されています。

この歌の別の稿「救ひなき裸木と雪のここにして乳房喪失のわが声とほる」から、歌集の題名が採られたと言います。

死後のわれは身かろくどこへも現はれむたとえばきみの肩にも乗りて

自らの死を予感しながらも、「きみ」への恋心を交えて幻想的な柔らかさを持って詠んでいます。

 

中城ふみ子の人格

子を抱きて涙ぐむとも何物かが母を常凡に生かせてくれぬ

梟も蝌蚪(かと)も花も愛情もともに棲ませてわれの女よ

中城ふみ子の短歌は、奔放な恋愛をその主題としたために、批判も多く受けています。

作者自身が、自分の人格を意識して詠んだ歌もあります。

ありもせぬ用を頼みてひとときもわれに無関心なるを許さず

大楡の新しき葉を風を揉めりわれは憎まれて熾烈に生きたし

これらの歌には、ある種の性格の特異性をも感じますが、晩年は精神的に不安定なこともあったようです。

いわゆる「病人のわがまま」の内に入るものかもしれません。

中城ふみ子の子どもの歌

悲しみの結実(みのり)の如き子を抱きてその重たさは限りもあらぬ

父なき子の重みに膝がしびれゐるこの不幸せめて誰も侵すな

作者には子どもが3人おり、しかも夫は離婚して父親が一緒に住んでいるわけではありません。

心残りだったことは言うまでもないでしょうが、歌は他者、あるいは自らの運命に挑むかのような文言でしめくくられています。

 

出奔せし夫が住むといふ四國目とづれば不思議に美しき島よ

作者と夫とは、見合い結婚で気が合わず、夫の職場での不正や転職で経済的に厳しくなったことや、夫の浮気などから別居となったようです。

背かれてなほ夜はさびし夫を隔つ二つの海が交々(こもごも)に鳴る

倖せを疑はざりし妻の日よ蒟蒻(こんにやく)ふるふを湯のなかに煮て

短歌の投稿を夫に禁止されていた作者は、投稿仲間を得、さらに夫とも離婚することで短歌に打ち込んでいくのです。

 

音たかく夜空に花火うち開きわれは隈なく奪はれてゐる

中城ふみ子の大胆にも性愛をテーマに詠んだ歌。

有名な歌ですが、個人的には、フィクション性が強い歌であると感じています。

たとえば

胸のここはふれずあなたも帰りゆく自転車の輪はきらきらとして

と対照すると、むしろ作者がこの歌を歌集に入れようとした意図が察せられるかもしれません。

恋愛の歌を多用した点で、歌集は批判を受けたとあります。中城は離婚して独身であり、死期を悟るという特異な状況にあります。

また、歌はいずれも発表を前提として作られているので、脚色や誇張も含まれているとも考えられます。

逆にいうと、『乳房喪失』が病気で乳房を失った女性の、死期の近い闘病だけを詠った歌集だったとしたら、どうであったでしょうか。

その場合は、この歌集が、それほど人の関心を引いたとも思われませんし、読む人の心にも重いものだけが残ることとなったような気がします。

恋愛の、それも脚色された歌が含まれていることが大切な意味を持っているのです。

中城ふみ子の恋愛の歌

中城ふみ子の他の恋愛の歌をあげておきます。

この夜額に紋章のごとかがやきて瞬時に消えし口づけのあと

診察衣ぬぎたる君が薔薇の木のパイプを愛しむ夜も知りたり

成就するなしと知るゆゑ優しくて肩ならべゆく春の薄氷

灼きつくす口づけさえも目をあけてうけたる我をかなしみ給へ

熱き掌のとりことなりし日も杳(とほ)く二人の距離に雪が降りゐる

1首目は、記者であった若月彰との体験。

この記者は後に本を出版、映画化もされるところとなりました。

2首目は医師のことですが、もちろん、恋愛関係にあったと考える人はいないでしょう。

3首目は病気が分かる以前の歌かもしれませんが、二人の微妙な関係を詠います。

その後もそうですが、奔放な恋愛の歌は、おそらく夫と離婚した後の短歌に傾斜していった一時期ともと思われますが、作者は、あくまで花に取り囲まれるように、華やかな恋愛遍歴で、この歌集を飾ろうとしたのだったかしれません。

中城ふみ子プロフィール

中城ふみ子 なかじょう-ふみこ
1922-1954 昭和時代後期の歌人。本名野江富美子。北海道出身。31歳
大正11年11月25日生まれ。東京家政学院在学中に池田亀鑑(きかん)に師事。乳癌(にゅうがん)の再手術で入院中の昭和29年4月「短歌研究」第1回50首詠に応募していた「乳房喪失」が1位に入選。―https://kotobank.jp/word/%E4%B8%AD%E5%9F%8E%E3%81%B5%E3%81%BF%E5%AD%90-1096631

 

中城ふみ子の伝記は、同じ北海道出身で医師である渡辺淳一による『冬の花火』がおすすめです。








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