金子兜太さんの辞世の句を紹介します。亡くなる2、3週間前に詠んだ俳句9句。
他に朝日歌壇より金子兜太さんの追悼の短歌と合わせてお知らせします。
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金子兜太辞世の9句
雪晴れに一切が沈黙す
雪晴れのあそこかしこの友黙まる
友窓口にあり春の女性の友ありき
犬も猫も雪に沈めりわれらもまた
さすらいに雪ふる二日入浴す
さすらいに入浴の日あり誰が決めた
さすらいに入浴ありと親しみぬ
河より掛け声さすらいの終るその日
陽の柔わら歩ききれない遠い家
金子兜太について
金子兜太さんは享年98歳。
1月上旬に発熱にて入院、いったん25日に退院し自宅静養、夜間は高齢者施設で過ごされました。9句はその間に詠んだものといわれます。
原稿用紙に書き留めたものを金子さんが清書。息子さんの奥様に自ら渡されたというものです。
「さすらい」との言葉
息子さんの真土さんが上の一連の「さすらい」という語に注目して下のように述べておられます。
金子さんはかつて、地に足がついた暮らしを大切にしつつ、心は自由をさまよう「定住漂白」という語をよく口にした。
最後まで自由な精神を尊び、一方で自宅と施設を行ったり来たりする現実が「さすらい」の語に凝縮されているのでは―朝日新聞より
と真土さんはみておられます。
金子兜太さん経歴
金子さんは1919年、埼玉県生まれ。
水戸市の旧制高校在学中に俳句を開始。
東京帝国大学経済学部卒業後、日本銀行に入行直後に海軍に入隊。
戦争を経験後、社会性の強い「現代俳句」の旗手として活躍。
87年から「朝日俳壇」選者、現代俳句協会名誉会長。
朝日歌壇から追悼の短歌紹介
朝日歌壇には金子兜太さんの追悼の短歌もまだ続いています。
これまでの歌。
マイク手に秩父音頭を独唱の白寿間近のあの日の兜太 大久保やそじ
人間に自然に春の嵐吹き兜太の骨のどつかりとあり 内野修
兜太逝き今は秩父の狼と遊んでいるか唄っているか 毘舎利愛子
山寺の父の頭を「禿げたな」と撫でて笑ひし兜太先生 齊藤紀子
蕗味噌をなめなめ酌みて懐かしむ金子兜太選の十句目 渡邉隆
大きいなあ金子兜太の抜けた穴「死ぬ気がしない」つて言つたのに 島田章平
金子兜太さんは俳句ばかりでなく、短歌を詠む人にも愛された、稀な俳人なのですね。