毎日歌壇10月29日 客船,風車,夢の世界,朧月,子を引く,大根のえくぼ,蝶の行方,銀のまほろば,雨の輪  

広告 現代短歌

毎日歌壇10月29日 客船,風車,夢の世界,朧月,子を引く,大根のえくぼ,蝶の行方,銀のまほろば,雨の輪

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こんにちは。まる @marutankaです。
毎日新聞の毎日歌壇から好きな歌を筆写して感想を書いています。
毎日歌壇は朝刊月曜日に掲載。当記事は、10月29日の掲載分です。

毎日歌壇とは

毎日歌壇についての説明です。
「毎日歌壇」とは毎日新聞朝刊の短歌投稿欄です。俳句は「毎日俳壇」です。
新聞の短歌投稿欄は、どの新聞においても、誰でも自由に投稿できます。投稿方法の詳しいことは別記事「毎日歌壇」とは何か?毎日歌壇の紹介と他誌の短歌投稿方法と応募の宛先住所」をご覧ください。

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加藤治郎・選

ながいながい旅路でしたね 星が降る 小さくなったあなたの手をとる 京都市 岡本沙織

句切れの多い歌が、肉声での語り掛けを思わせる。「星が降る」はメタファーなのだろう。良い歌だ。特選。

椅子などは概念ですし腰かけた途端に立ちどころに現れる 名古屋市 古瀬葉月

ラッセルの「哲学入門」(だったか)は、テーブルの描写から始まったことを思い出す。腰かけた時から、木を組み合わせたものが『椅子」となるのだ。

床に沈む感覚ありし日のことを思ふあの日に辞めてよかつた 越谷市 高木寛子

ああ、つらかったのだろうなと思う上句は、比喩ではなくて、作者は実際にそう感じたということだろう。結句にほっとする。

篠弘・選

部員らと夜ごと飲みしか責任を持つそれぞれに横糸通す 東京 上田国博
定年のわれを社屋の外にまで見送りくれし手を握りたり 東京 東賢三郎

サラリーマンの歌2首。冒頭の歌は特選。そういえば、「サラリーマン」という言葉のニュアンスも若干違ってきたような気がする。

月末の最後の払いを受け取れる男ゆっくりケーキをくずす 秋田市 山田愁眠

「男」は自分自信を俯瞰して言うのだろうか。

五十年過ぎても残る二階建てアパートを見るさびしいときに 大阪市 山崎一幸

最近は社会現象を受けて、こういった歌が多くなった。

いくたびも呼ぶ子返りの姑(はは)の声水音に消す夜の洗顔 川崎市 大平真理子

顔を洗って、その声が聞こえないときだけ解放される。介護は大変だ。私の姑に当たる人は、比較的元気だがそれでも縛られて何もできない思いになる。

さみどりの帚草(ほうきぐさ)大小並ぶ丘まりもが湖中にただよひてゐる 旭市 寺島志津子

陸に箒草、湖にマリモ。北海道ならではの風景だろう。ちなみに箒草とはコキアのこと。

新しき久留米絣(がすり)のスラックス穿けば身うちに薫風の立つ 山口 宮田ノブ子

結句がいい。薫風とは初夏、新緑の間を吹いてくる快い風のこと。久留米絣には独特の涼感がある。

大型の客船のごと水張り田に今年マンションの灯火を映す 吹田市 鈴木基充

上句の比喩が良い。田んぼに山が映るというのは何度か見かけたが、「客船」が素晴らしい。「灯火」の音の響きも良い。

きらきらと晩夏の光を吸いこみて風車は回る凪ぎたる海に 安芸高田市 菊山正史

「晩夏」はルビを振って「なつ」と読むのだろうか。すてきな光景だ。

米川千嘉子・選

逝きし娘よ一時停止で見られるまで強くなれたよ漸く老母(はは)も 大阪市 下川佳子

「少し前までの作者は辛くてそれを静止画面で見ることも出来なかったのだ。」との評者の言葉がある。子どもを先を亡くすのを「逆縁」というが、人生には時にこんなにも辛いことがある。

二年休み復帰をしたるボランティアその場に残る若い我の字 調布市 齋藤理津子

2年後にまたボランティアを継続した作者、その2年の間の成長が自分でもわかるというのはお若い方なのだろう。

恐竜と忍者が仲良く遊んでる吾子の世界で我はうたた寝 奈良市 久保祐子

夢の中では子どもの世界で大人も遊べる。すばらしくすてきな歌だ。

十月のニュージーランドへ行く空に真夜目覚むれば朧月かも 静岡市 柴田和彦

これから外国へ旅に向かおうとして、朧月に見送られるかのよう。「かも」は詠嘆。

点滴のスタンド引きゆく秋の午後父が幼の手をひくように 八幡市 会田重太郎

かつて自分がそうされていたのかもしれないと思うと切ない。父親へのやさしいまなざしがそう思わせるのだろう。

ゑくぼ深く持つゆゑ安値の大根の重さ親しも雨の帰り路 常総市 渡辺守

安値の大根のくぼみを「ゑくぼ」と呼ぶ。それだけで歌が成り立つ思いつきだ。

伊藤一彦・選

みな声を掛けられるのを待つと言う社交家なる妻の哲学 町田市 冨山俊朗

ああなるほど、そのような信念があるから、臆することなく人に声が掛けられるのだと納得する作者。特選。

施設にも待つ母のなくこの秋のふるさとに食ふラーメンの味 水戸市 森純一

施設にすら親が居なくなることにも寂しさがある。私も以前施設に向かい合うレストランで食事をしたことがある。そこに父はもう居なかったのだが。

東海の小島の都市の病院に九十三の眠れる媼 仙台市 梅津シゲル

啄木の「東海の小島の磯の白砂に…」の本歌取り。入院は心細いが、こう詠めば少しは楽しめる。

雲ひとつ無く晴れ渡る姫島のアサギマダラや明日は何処か 福岡 神吉一徳

アサギマダラは八ケ岳では初夏から夏の終わりに見られる蝶。結句がとにかく良い。

逆光に揺るる尾花に誘はれて辿り着きたる銀のまほろば 名古屋市 咲花徳太郎

この歌も良い歌。まほろばは「素晴らしい場所」の意味だが、そこがススキに彩られ「銀のまほろば」となる。「尾花」はススキの別名。

川の面にいくつもの円あらはれて秋草濡らす雨降りはじむ 犬山市 中屋ふみえ

雨の降り始めを詠ったものだが、上句の観察のポイントがすてきなとらえ方だ。

まとめ

今号は、思わず「素晴らしい」を連発したくなるような歌ばかりでした。自分でも頑張って読まなくては。では、また来週を楽しみに。




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