靴紐を結ぶべく身を屈めれば全ての場所がスタートライン 作者山田航の教科書、教材に取り上げられる短歌の代表作の意味、文法や表現技法について解説、鑑賞します。
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靴紐を結ぶべく身を屈めれば全ての場所がスタートラインの解説
読み:くつひもを むすぶべくみを かがめれば すべてのばしょが すたーとらいん
作者と出典
作者:山田航 やまだ わたる
出典:歌集『さよならバグ・チルドレン』
現代語訳
靴の紐を結ぼうと体をかがめるどのような場所もスタートラインになり得る
語と文法の解説
語と文法の解説です
「結ぶべく」
- 結ぶべく・・・「べく」の基本形は「べし」
- 意味は「…しよう。…するつもりだ。…してやろう」の意志を表す
- この歌では、身をかがめた目的が靴ひもを結ぶため
- 「べし」には推量・可能などの他の意味もある
句切れと表現技法
- 句切れなし
- 体言止め
- 文語定型
解説と鑑賞
短歌の意味と内容を鑑賞していきます。
一首のキーワード
この短歌を収録した歌集『さよならバグ・チルドレン』の冒頭には
「スタートラインに立てない全ての人たちのために」
との巻頭句があり、「スタートライン」が歌集のキーワードとなっています。
スタートラインを表す歌として、靴紐を結ぶ体の形が、陸上競技の短距離走のクラウチングの態勢に似ていることから、「靴紐→スタートライン」の着想を盛り込んだところが一つのポイントです。
「靴紐を結ぶべく身を屈めれば」の行為の意味は、身をかがめたのはスタートのためではなく、靴紐を結ぶ目的です。
しかし、一連の行為がが靴紐を結んで終始するのではなく、靴紐を結んだあとはまた立って歩き出す。それが「スタート」との共通項といえます。
意味のポイントは「すべての場所」
一首のポイントは、かがんだ姿勢がスタートの姿勢に似ていたということではなく、その後の「すべての場所」です。
靴紐を結ぶのは家の中ではなく公道で、特定のどこかでなく、世界のあらゆる場所で誰もが何気なく行うことです。
そのように軽やかにいつでも新しく物事を始められると作者は自らを励ましています。
また、先に述べたように歌集の冒頭に「スタートラインに立てない全ての人たちのために」とあるところから、自分だけでなく、他の人たちにもメッセージを送っており、この歌を含めたすべての歌を自分だけではなく読者と共有できる歌として作者は考えているのでしょう。
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山田航のプロフィール
1983年生まれの現代短歌の歌人。
北海道札幌市出身。平成21年(2009年)に第55回角川短歌賞と第27回現代短歌評論賞をダブル受賞。
歌集に『山田航第二歌集 水に沈む羊』,第三歌集『寂しさでしか殺せない最強のうさぎ』がある。