木下龍也の短歌集『つむじ風ここにあります』の作品の紹介です。
”ユーモアとブラックユーモア”が際立つ、きっちりエッジの立った短歌作品です。
木下龍也の歌集はいずれもアマゾンのKindleで無料で読めます。Kindleについても合わせてご紹介します。
スポンサーリンク
木下龍也『つむじかぜここにあります』
歌人、木下龍也さんは、1988年生まれ。山口県出身。
2011年より本格的に作歌を始め、ダ・ヴィンチ誌上『短歌ください』(穂村弘選)や短歌×写真のフリーペーパー『うたらば』、毎日新聞歌壇などに作品を投稿されていたそうです。
2012年、現代歌人協会主催の第41回全国短歌大会にて大会賞を受賞されました。
第一歌集『つむじ風、ここにあります』第二歌集『第二歌集『きみを嫌いな奴はクズだよ』
その他、岡野大嗣共著歌集『玄関の覗き穴から差してくる光のように生まれたはずだ』があります。
木下龍也作品 ハイライト集
「つむじ風、ここにあります」のKindle版自選100首というものから、皆に共有されて「x人がハイライトしています」として表示されているものをご紹介します。
普通の本なら付箋を貼った歌ということになるでしょう。
レジ袋いりませんってつぶやいて今日の役目を終えた声帯
雨ですね。上半身を送ります。時々抱いてやってください。
空を買うついでに海も買いました水平線は手に入らない
手がかりはくたびれ具合だけだったビニール傘のひとつに触れる
ハンカチを落としましたよああこれは僕が鬼だということですか
母が死ぬ前からあった星だけど母だと思うことにしました
そういえばいろいろ捨ててあきらめて私を生んでくれてありがとう
右利きに矯正されたその右で母の遺骨を拾う日が来る
愛してる。手をつなぎたい。キスしたい。抱きたい。(ごめん、ひとつだけ嘘)
「かなしい」と君の口から「しい」のかぜそれがいちばんうつくしい風
他に私の好きなものと言えば、タイトルになった歌を含む下のもの。
つむじ風、ここにあります 菓子パンの袋がそっと教えてくれる
夕暮れのゼブラゾーンをビートルズみたいに歩くたったひとりで
雑踏の中でゆっくりしゃがみこみほどけた蝶を生き返らせる
木下龍也の代表作
それから、よく木下龍也の代表作のように、下の3首が引かれているのを見つけます。
いくつもの手に撫でられて少年はようやく父の死を理解する
コンビニのバックヤードでミサイルを補充しているような感覚
B型の不足を叫ぶ青年が血のいれものとして僕を見る
木下龍也さんの短歌の特徴としてよく言われるのは、ユーモアとブラックユーモアで、いわゆる”エッジの立った”感触のある作品です。
コピーライター志望だったそうで、定型にきっちりと収まる言葉選びがなされており、モチーフと言葉の目指すところがいずれの歌もはっきりとしています。
題材にされるのは日常的な事物ですが、そこから不思議な新しい世界がのぞく「異化」を思わせる作品が多いながら、現代短歌が皆そうであるように、必ずしも「私」の一人称の作品ばかりではない。
むしろ、映画を撮るような手法で、情景を切り取った歌に鮮烈な印象があります。
いくつかの歌を見てみましょう。
レジ袋いりませんってつぶやいて今日の役目を終えた声帯
下句のポイントは「声帯」。そこにズームアップがなされており、「私」の心情は表には出されていません。
ハンカチを落としましたよああこれは僕が鬼だということですか
読み手は登場人物と同じく、その状況は何かがわかりません。下まで読んで、この歌そのものが、読み手のためにしつらえられたものだということがわかります。
この歌のポイントは、そのような時間と理解が盛り込まれているということでしょう。
B型の不足を叫ぶ青年が血のいれものとして僕を見る
献血という何となく不気味な行為への不安、その不安が「私」が、相手にとっての目的のものを貯えた一つの事物であるという新しい認識を生むのです。
「かなしい」と君の口から「しい」のかぜそれがいちばんうつくしい風
「しい」の音韻の連鎖、それが君と「私」すなわち上句と下句とに受け渡しされ、2人=上下句をつなぐものとなっています。
空を買うついでに海も買いました水平線は手に入らない
こういう歌は、あるいは「空」と「海」「水平線」を使って作ろう、として作られるのかもしれません。
その間を言葉で埋めることは、逆にひじょうにスキルが要ると思います。
木下龍也『つむじ風ここにあります』と最新の歌集『きみを嫌いな奴はクズだよ』、いずれの歌集も、アマゾンの「Kindle Unlimited」(キンドル アンリミテッド)というのを契約すると、無料で読めます。
登録そのものも初月無料ですので、まずは無料体験をご利用ください。