「生きづらさを詠む歌人」短歌月評より萩原慎一郎と虫武一俊の短歌  

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「生きづらさを詠む歌人」短歌月評より萩原慎一郎と虫武一俊の短歌

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萩原慎一郎さんと虫武一俊さんの短歌が毎日新聞の短歌コラム「短歌月評」、「生きづらさの内景」というタイトルで紹介されていました。

お二人の短歌は、お正月の「平成万葉集」でも取り上げられていました。こちらにも再度ご紹介します。

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「生きづらさを詠む歌人」の短歌

上のコラムで取り上げられた歌は、お二人の歌一首ずつです。

非正規の友よ、負けるな ぼくはただ書類の整理ばかりしている 萩原慎一郎

螺旋階段ひとりだけ逆方向に駆け下りていくあやまりながら 虫武一俊

萩原さんの歌は、「非正規雇用」への嘆きを詠ったもの、虫武さんの歌は、「社会の不合理以上に自身の内部深くに棲(す)みついた生きがたさ」と言うように、書き手の加藤英彦さんが書いています。

萩原さんは、その後自死で亡くなっておられ、虫武さんは、「平成万葉集」の中でも、ご結婚されたことが伝えられました。

 

萩原慎一郎歌集「滑走路」

萩原慎一郎さんは、いじめに悩んでいましたが、俵万智に出会って短歌を始めます。

大学卒業後は非正規雇用に悩み、32歳で自死するまで多くの短歌を残されました。

非正規の友よ、負けるな ぼくはただ書類の整理ばかりしている

頭を下げて頭を下げて牛丼を食べて頭を下げて暮れゆく

夜明とはぼくにとっては残酷だ 朝になったら下っ端だから

東京の群れのなかにて叫びたい 確かにぼくがここにいること

コピー用紙補充しながらこのままで終わるわけにはいかぬ人生

非正規という受け入れがたき現状を受け入れながら生きているのだ

 

虫武一俊さんの短歌

「待たせたな」もうすぐカッコつけながら来るはずおれのなかの勇気は

生きていくことをあなたに見せるときちょうど花びらでもふればいい

この格差社会の底の草原にわれはこそこそ草を食う鹿

くれないの京阪特急過ぎゆきてなんにもしたいことがないんだ

眼を閉じて屋根の向うの星叩くこの世は永遠の暇潰し

十歳職歴なしと告げたとき面接官のはるかな吐息

生き方が洟かむように恥ずかしく花の影にも背を向けている

虫武さんは、上にあるように、30歳まで社会経験がない生活をしておられたようです。

結社には属さずに、ネットに短歌を投稿。歌集はその間に詠んだ4千首余りの中から、選んだ短歌で編纂されたといいます。

この方の歌が紹介されるときはどうしても、「格差社会」という、社会面から語られることが多いのですが、それだけではなくて、

行き止まるたびになにかが咲いていてだんだん楽しくなるいきどまり

などの、系統の違う作品にも魅力が感じられます。

生活シーンが変わっていくにしたがって、作品のカテゴリーも増えていかれるのではないでしょうか。

「生き難さ」の一つに押し込めたくはない作品の数々、ぜひ皆様もご覧ください。

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