教科書の短歌

細胞のなかに奇妙な構造のあらわれにけり夜の顕微鏡/永田紅 意味と鑑賞

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「細胞のなかに奇妙な構造のあらわれにけり夜の顕微鏡」永田紅の有名な短歌代表作の一首、教科書に掲載されているこの歌の意味と現代語訳、文法、表現技法を解説、鑑賞します。

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細胞のなかに夜の顕微鏡

読み:さいぼうの なかにきみょうな こうぞうの あらわれにけり よるのけんびきょう

作者と出典

『日輪』永田紅

現代語訳

細胞を除いていると、そこに奇妙な構造が現われてきたのだよ。夜の顕微鏡の中に

句切れと文法解説

・2句は 句またがり。

・4句切れ

・4句末尾の「けり」は、詠嘆の助動詞。
「…たのだなあ」の意味

・夜のは、「よ」または「よる」。フリガナはない

表現技法

・「細胞の/中に奇妙な/構造の」となっており、この言葉の不自然なつながり方が、細胞の視覚的な奇妙さに通じるものとなっている

・3句の、たとえば「かたち」などの他の言葉ではない「構造の」という漢語の固い響きにも注意したい

 

解説と鑑賞

作者は生物学の研究者であり、ある夜研究室で顕微鏡を覗いていて、そこに見えてきたこれまでとは違う異質な細胞の特質に目を奪われた、その際の感慨をそのまま表したと思われる。

研究室という閉塞的な空間、そして、時間は夜であって、研究者である作者の相対するものは、すべて顕微鏡の中のミクロの世界である。

そのような限局的な世界にあるものに、心を揺さぶられる体験、その感慨を研究者としての興味とは別に、自身の日常として、そのまま詠ったものである。

また、作者が近年のコラムで揚げているように、斎藤茂吉の同様の題材の歌を挙げており、これらの歌が内容は違うが、研究の歌として同じカテゴリーの研究の歌として、無意識に下敷きになっていたかもしれない。

永田は「大学の研究室で顕微鏡をのぞいて細胞を観察するとき、私はいつもこの一首を思い出す」として、茂吉の下の歌をあげている。

屈まりて脳の切片を染めながら通草(あけび)の花をおもふなりけり 斎藤茂吉

それについて永田は

私も顕微鏡観察をしながら、細胞の中のある小器官が、カラスウリの白いレース状の花のように見えて感激することがあるが、そんな見方ができるのは、茂吉のこの一首を知っているからだろう。

同じ研究者である茂吉との共通の感慨を挙げながら、その内容を下のように分析する

対象に集中しながらも、心がふっと遊ぶ瞬間を茂吉と共有できた気になる。

この「心がふっと遊ぶ瞬間」というのが、研究とは別種の、ある種の興味と感慨「奇妙な構造のあらわれにけり」」であり、その詠嘆なのだろう。

研究者であるので、普通の人から見れば、日常とはかけ離れた動物の死体や、様々なものを扱う。

それ自体が作者の日常であるのだが、それにしても標本が観察の対象物でありながら、それを何らかの異質さを感じさせる「構造」という言葉でとらえる。

「研究者」のアイデンティティーを一瞬離れる、その浮遊する心の在り方がおもしろいところがある。

永田紅の他の歌

作者は他にも、研究室にあって得た物事を題材にした歌をたくさん詠んでおり、特殊なモチーフに興味を惹かれる。

レポートが夜明けとともに出来上がるかわいいのはフラスコのおしり

内臓をもとに戻して終わらむとするとき体は嚢と思う

冷静に動きいるのは白衣なりラットをビニール袋に集める

あらわなる肘より先を差し入れてあなたの無菌操作うつくし

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永田紅さんは、歌人河野裕子さんの長女。家族で闘病を支え合った日々とその歌。





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