短歌の書き方は、実はひとつではありません。一行、または行を分ける分かち書き、句読点の有無、文字の間の字空け等、短歌の標準的な書き方とその例外について解説します。
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短歌の書き方
短歌は、57577の31文字で記される、短い詩文です。
短ければ、書き方は簡単なようで、工夫の余地もないようにも思われますが、実は、表記の仕方には、時代によって、歌人によって、派によっても違いがあります。
標準的な短歌の書き方
標準的な短歌の書き方を、全体の表記の仕方と、言葉の表記の仕方に分けて記します。
短歌全体の表記の仕方
全体の表記の仕方は以下の通りです。
- 縦書きで一行
- 字空けをしない
- 句読点は入れない
例外や、各歌人の工夫については、下に記します。
縦書きで一行
短歌は、普通は縦書きで一行に書かれるのが普通です。
短歌を一行で記す例
春の野にすみれ摘みにと来しわれそ野をなつかしみ一夜寝にけり
作者:山部赤人 万葉集より
石川啄木の短歌の3行分け
石川啄木は、短歌を一行で書かずに、「分かち書き」をする、すなわち、3行に分けて記すという独特の書き方をしました。
ふるさとの
訛なつかし停車場の
人ごみの中にそを聴きにゆく
作者:石川啄木『一握の砂』より
これは、石川啄木独特の工夫といえます。
文字と文字の間の「字空け」
文字と文字の間に、間隔をあけることを、「字空け」といいます。
一文字分を空ける「一字空け」が多くみられますが、二文字分を空ける「二文字空け」もあるそうです。
通常、短歌は、文字と文字、言葉や、各句の間に、間隔を開けない、すなわち字空けをしないで記すのが標準的です。
字空けをした短歌の例
字空けのある作品は、現代短歌に多く見られます。
この春のあらすじだけが美しい 海藻サラダを灯の下に置く
作者:吉川宏志『夜光』
「美しい」と「海藻サラダ」の間に位置文字を空けています。
おそらく「美しい海藻サラダ」と読まれることを避けた、表記上の工夫ともいえます。
句読点
句読点は、通常は短歌には使いません。
ただし、特殊な場合に、用いる歌人もいます。
短歌に句読点を用いた例
葛の花 踏みしだかれて、色あたらし。この山道を行きし人あり
作者:釈迢空
句読点両方の他に、一字空けも用いられています。
この歌人の場合は、短歌を読んで、あるいは目で見ながら鑑賞するときに、上記の表記の工夫をすることで、歌の調べや緩急を、より深く伝えようとしたものと思われます。
短歌に使う文字の違い
古い時代の短歌を鑑賞する際に知っておきたいのが、短歌の書き方だけではなく、使われている文字の表記に違いがあるという点です。
新仮名遣いの短歌と旧仮名遣いの違い
現代の短歌は、一般的な文章の表記に用いる、新仮名遣い(かなづかい)と呼ばれるもので記されるのが一般的です。
しかし、一部の短歌の愛好者は、現代でも旧仮名遣いを用いる人も多くいます。
旧仮名遣いとは、たとえば、「言う」を「言ふ」というように、実音とは違う表記をします。
古い時代の短歌は、すべてこの旧仮名遣いで記されています。
旧仮名遣いの短歌の例
しのぶれど色に出でにけりわが恋は 物や思ふと人の問ふまで
作者:平兼盛 百人一首より
「思ふ」「問ふ」がそれぞれ旧仮名遣いで記されています。
これを、実際に歌をよむときに「おもふ」と読んでしまってはいけませんので、読む時には新仮名の発音に即した文字に置き換えて読む必要があります。
参考:短歌と旧字体
古い時代の短歌は、旧仮名だけではなく、旧字体も用いられています。
陸奥のしのぶもぢずり誰ゆゑに乱れそめにし我ならなくに
作者:河原左大臣
「ゑ」の読みは、「え」です。元々の漢字は、「ゑ」ですが、現在表記されるときは、普通に「誰ゆえに」と記されていることがほとんどです。
以上、短歌の書き方と表記についてご説明しました。