こぬ人をまつほの浦の夕なぎに焼くやもしほの身もこがれつつ 権中納言定家、別名、藤原定家の和歌です。
藤原定家は百人一首を編纂した歌人の一人、百人一首に自ら選んだ、権中納言定家の有名な和歌を解説、鑑賞します。
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こぬ人をまつほの浦の夕なぎに焼くやもしほの身もこがれつつ
作者:権中納言定家 (藤原定家)
出典:百人一首97番
現代語訳:
松帆の浦の夕なぎの時に焼いている藻塩のように、私の身は来てはくれない人を想って、恋い焦がれているのです
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語と句切れ・修辞法
掛詞と縁語、序詞が使われている歌です。
句切れ
句切れは3句切れ
序詞
「こぬ人をまつほの浦の夕なぎに焼くやもしほの」までが序詞
語句解説
- こぬ人…こぬは「来ぬ」。自分の元へ会いに来てくれない人のことです。
- まつほの浦…「まつほ」は兵庫県淡路島北端にある海岸の地名。「まつ」に同音の「待つ」をかけている掛詞。
- 夕なぎ…夕方になって波が穏やかに和いでいる様子
- もしほ…「藻塩」。海の海藻の一種の藻を海岸で焼いて、塩を精製した
- こがれつつ…恋に「身を焦がす」と焼く藻の「焦げる」との掛詞
※掛詞の解説は
掛詞とは 和歌の表現技法の見つけ方を具体的用例をあげて解説
解説
藤原定家が自ら編纂した百人一首に選んだ、掛詞と縁語の見られる技巧的な和歌。
技巧尽くしの歌
掛詞は「松」と「待つ」。他に、「焼く」「藻塩」は「こがれ」の縁語。
海辺の風景では、焦げるのは藻であるが、それを自身の「身」の恋に「こがれる」と重ねている。
さらに「こぬ人をまつほの浦の夕なぎに焼くやもしほの」までが序詞となっている。
技巧尽くしの見事な歌として出来上がっています。
主人公は海女のフィクション
この歌の主人公は、海乙女(あまおとめ)と呼ばれる海女のことで、一首は女性が主語です。
この時代には、男性が女性に成り代わってうたう「女歌」がしばしば作られました。
そしてこの歌は、万葉集の本歌取りとなっています。
その部分は下の通り
「 松帆の浦に 朝なぎに 玉藻刈りつつ 夕なぎに 藻塩焼きつつ 海人娘人(あまおとめ)」
万葉集をベースに本歌取りで、夕暮れの海岸に立つ若い女性が、エキゾチックな感のある海辺の風景の中で相手を思っているという、一枚の絵のような風景を見事柄に描き出しています。
藤原 定家について
藤原 定家(ふじわら の さだいえ/ていか)は、平安時代末期から鎌倉時代初期にかけての公家・歌人。
読みは「ていか」と読まれることが多い。父は藤原俊成。
日本の代表的な新古今調の歌人。『小倉百人一首』の撰者。
作風は、巧緻・難解、唯美主義的・夢幻的と言われている。