滝落ちて群青世界とどろけり
水原秋桜子の教科書掲載の俳句、作者が感動したところや心情を解説、この句の感想も記します。
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滝落ちて群青世界とどろけり
読み:たきおちて ぐんじょうせかい とどろけり
作者と出典:
水原秋桜子 みずはらしゅうおうし 句集「帰心(惜春海景)」
現代語訳
滝の水がどうどうと音を立てながら落ちていき、群青色一色のこの世界がとどろくのだ
句切れと切れ字
句切れなし
切れ字「けり」
季語
季語は「滝」 夏の季語
形式
有季定型
解説
水原秋桜子の教科書掲載の俳句。
「群青世界」の造語を用いて、あたりを揺るがす滝とその音の大きさ、揺るぎのない荘厳を表す。
「群青世界」とは
この句の眼目となる言葉は、2句目の「群青世界」である。
「群青色の世界」ということだが、それを漢語の4文字の秋櫻子の造語と考えられる。
漢語の4文字熟語は、滝の堅牢な感じや大きさを印象付けるものとなっている。
「ぐんじょうせかい」の音、特に「ぐん」の弾む感じも印象に残る。
「世界」はこの場合の滝を取り巻く情景のことで、山の杉林を差すが、それを群青の山、または林などと言わずに、思い切り大きく「世界」とした。
「群青」は色、または染料の名称だが、あえて「緑」は「深緑」といわずに、暗緑の山を表す形容として用いた。
とどろくの意味
「とどろく」は、振動・反響を伴う、大きな音が鳴り響くこと。
「轟く」との漢字もあるが、ひらがなで表記されている。
「とどろく」は擬音ではないが、濁音を含む音の響きは、滝の音を連想させる効果がある。
作者の思いと心情
作者の感動は、作者の面前いっぱいに広がる滝の音の大きさ、雄大さへの驚きにある。
句の背景
詠まれた滝は、和歌山県の那智(なち)の滝というところ。
水柱は落差133m、銚子口の幅13m、滝壺の深さは10mで、落差は日本一とされる。
作者は、昭和25年にここを訪れてこの句を詠んでいる。
私自身の感想
この句で印象に残るのは「群青世界」の言葉です。群青の色もそうですが、世界という広い範囲に響く滝の大きさが想像でき、厳かで揺るぎのない滝の様子も伝わってきます。
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